是枝監督『夜の湖の撮影映像に手紙を添えてオファーした』 坂本龍一さんとの生前のやりとりを明かす

2023.5.10 09:00

映画『万引き家族』で『第71回カンヌ国際映画祭』で最高賞のパルムドールを受賞した是枝裕和監督の5年ぶりの新作日本映画となった『怪物』。
その完成披露試写会が5月8日に行われ、主演の安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太をはじめ、高畑充希、中村獅童ら豪華キャスト陣、そして監督の是枝裕和、脚本家の坂元裕二が出席した。

是枝監督が今一番リスペクトしていると語る脚本家・坂元裕二と初タッグを組んだ今作。そして音楽を担当したのは3月にがん闘病の末に亡くなった世界的な音楽家・坂本龍一さんだ。登壇した是枝監督は坂本さんとの生前のやりとりを明かした。

是枝裕和監督

■映画音楽としては坂本龍一さんの“遺作”に

是枝監督は亡くなった坂本さんへの思いを聞かれると「亡くなられたのは本当に残念ですけど、最後にこういう形でご一緒できたのは誇りですし、この作品にとって坂本さんの音楽が必要だったというのは、出来上がった作品を見ると誰よりも自分が強く感じています」と語った。実は以前から坂本に音楽を依頼する機会をうかがってきたという。長年の念願がかない実現したコラボレーションの経緯を振り返った。

映画の撮影場所が長野県・諏訪地方に決まり、撮影が始まると「夜の湖の風景に坂本さんのピアノが響くといいな」と思いながら、坂本さんの曲を仮当てして編集していたという。

是枝「(許可が出る前に)撮影の終わった段階で編集したものに音楽を仮当てしたものと、手紙を書いてオファーしました。体調のことがあったので、ダメだったら辞めようと思ったんですけど、すぐ見ていただいてお手紙が届いて、『全部を引き受ける体力は残っていないけども、見させていただいてとても面白くて、音楽のイメージが何曲か浮かんでいるので形にしてみますので、気に入ったら使ってください』と、そういうお手紙でした」

最終的に書き下ろしの2曲と、坂本さんの最新アルバム『12』からの曲、そして仮当てしていた過去の曲により、映画『怪物』の音楽は構成されることとなった。

是枝「映画に当てて作っていただいた曲だけじゃなくて、その『12』(坂本の最新アルバム)から使わせていただいた曲も本当に映画を見て作っていただいたんじゃないかというくらい映像と作品がマッチしていて、作品の中から聞こえてくる音として、そこに存在してくれているので、不思議な気持ちを抱いています。本当に感謝しています」

■脚本家・坂元裕二と初タッグ

是枝監督にとって自身のものではない脚本で映画を撮るのは、デビュー作『幻の光」(1995年)以来のこと。これまで「脚本家と組んで映画を作るなら誰か?」という問いに、即答で名前を出していたのが、『東京ラブストーリー』(1991年)や『それでも、生きてゆく』(2011年)などを手掛けてきた脚本家・坂元裕二だった。

そんな是枝のラブコールに呼応するかのように、今回の企画は坂元から声をかけたという。

左から、坂元裕二、是枝裕和監督

坂元「正直というか率直に驚きました。監督が受けてくださると聞いて、長いキャリアの中で基本は脚本をご自身で書かれている監督ですから、是枝裕和という脚本家は素晴らしい尊敬する脚本家ですので」

是枝「何度か坂元さんにお声がけして対談をしていただいていて、自分で書かないんだったら、坂本さんにお願いしたいというのは直接話していたんですよ。僕からずっとラブコールを送っていたので、名前を出していただいたんだと思う。プロデューサーの川村元気さんから連絡をいただいて“坂元さんと開発しているプロットがあるんだけど、読んでくれないか?”と。言われた時点で読む前に引き受けていたので、決めたので。これは引き受けてチャレンジしてみようって思いました。それくらいこのタッグの実現には憧れていました」

■“是枝組”への参加 出演者それぞれの思い

『万引き家族』以来の“是枝組”への参加となった安藤サクラは万引き家族からそれほど時間が経っていない時期にオファーがあったと振り返り、当時の胸中を語った。

安藤サクラ

安藤「こんなにも早く監督からお声掛けいただけるとは思ってもいなかったので、ものすごくうれしかったんですけど、その反面、監督の現場にすぐに戻ること、そして坂元さんの脚本であること、そのハードルは私にとってものすごく高く感じてしまって。かなり長いこと怖気付いておりまして、覚悟を決められない時間が長くなってしまいまして。でも完成した作品をスクリーンで見たときに、本当にその時の自分を一発殴ってやりたいような(笑)自分の想像を遥かに超えた作品に出させていただけて、怪物に参加した一員としてではなく、映画を見た一員として、すごくなんというか、この映画に感動して涙が止まらなかった」

永山瑛太

永山瑛太はこれまで坂元の脚本作品に欠かせない存在として『それでも、生きてゆく』(2011年)や『最高の離婚』(2013年)などに出演。今回、初参加となる“是枝組”について思いを語った。

永山「坂元さんとは20代前半からお付き合いさせていただいて、数々の素晴らしい脚本を書いていただき、本当に俳優を続けている限り一生お付き合いしたいなという思いでいます。そして是枝さんは本当に僕が俳優を始めてからずっと、是枝さんの映画を20代前半の自分なりに“この人が多分日本映画を変えていくんだな”と感じまして、それから全作品を見させていただいていて、本当にお二人の座組の中に自分が入るということは、内容とか、役とか、出番がどうとか、自分がどういうお芝居をしようとか、そういうことじゃなくて、もうこのチームに入れたことで幸せ者だなと感じています」

高畑充希

高畑充希も今回が初めての是枝作品。撮影初日がキャストたちのクランクインと重なり「緊張マックスでセリフで何をしゃべったか覚えていないくらいだった」そうだが、キャストやスタッフたちにあたたかく見守られ、あっという間に3日間の撮影が終わってしまい「ちょっと寂しい感じ」と語った。

中村獅童

そして中村獅童は“是枝組”への参加は「長年の夢だった」と話し、鎌倉に住んでいた頃に『海街diary』(2015年)の上映イベントに出かけてゆき、現場で是枝監督を待ち伏せしたエピソードを披露した。

中村「僕はもともと是枝監督の大ファンなので、なんとか自分の思いを伝えたいと、大体こういう映画館って上手か下手のスクリーンの脇のところに裏にいく扉があるので、そこから勝手に入ってですね。何の約束もしてないんですよ。楽屋の前で待ち伏せをして。“いつか僕を使って下さい”と言ったんですね。それが2015年だったので、それから時間が経つなかで、僕みたいな役者はお好きじゃないんだろうな…… と思っていたんです。本当に思いっていうのはかなうんだなってことをつくづく思いましたね」

監督の思いに応えた音楽家。相思相愛だった脚本家と監督。長年の夢が実現した出演者。

それぞれの夢が形となった映画『怪物』は6月2日から公開。すでに『第76回カンヌ国際映画祭』コンペティション部門に選出され出品が決まっている。

怪物
6月2日(金)全国ロードショー
©️2023「怪物」製作委員会
配給:東宝 ギャガ
監督:是枝裕和「万引き家族」
脚本:坂元裕二「花束みたいな恋をした」
音楽:坂本龍一「レヴェナント:蘇えりし者」
出演:安藤サクラ 永山瑛太 黒川想矢 柊木陽太 高畑充希 角田晃広 中村獅童 田中裕子

写真:©entax

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