『はな恋』脚本・坂元裕二「棺桶に入れるならこの作品」広瀬すず、杉咲花、清原果耶トリプル主演 映画『片思い世界』ティーチインイベント開催
2025.4.15 12:50坂元作品といえば、テンポのいいセリフのやり取りや、共感性の高いセリフなどが特色であるが、「どういう時にアイデアを思いついて、どういう風に肉付けしているのですか?」という質問も。
それには「みんな誰しも、何十年も生きていれば『こんな面白いことがあった』というようなエピソードトークがあると思います。だからまず、その人が持っているエピソードトークを書くんです。この人はこういう性格だとか、こういう趣味があるとか。たとえば、その人がトイレに閉じ込められた時に、3時間気絶したとか……これは(ドラマ)『大豆田とわ子と三人の元夫』の松田龍平さんが演じた役の話なんですけど。その時、トイレにボールペンがあったので、トイレの壁一面にずっと自分の履歴書を書いた、と。それは結局使わなかったんですけど、そういうことを考えるようにしていますし、大事にしています」と創作の裏側について明かす。
ちなみに本作のキャラクターの履歴書については、「本作では 3 人とも同じ人だと思っていて。別々の人なんですけど、3人でひとりみたいな感じで書こうと思ったので、特に性格付けをするのはやめようと。テレビはキャラクターものなので作るんですが、今回はしなかった」とのことだ。

続いて「これまでは残された側の人たちを描くことが多かったと思うが、今回、残した側の視点で描こうと思ったのは?」という質問を受けると、「結局、(映画を)観る側は、死に出会ったわけではないので、残された側だと思う。そうすると鏡のように残された側も描かれることになる。もちろん(杉咲花演じる)優花の母親などは出てきますし、残された側も描いたつもりなんですけど、自分の気持ちとしては、先に逝ってしまった人たちに気持ちを残して描こう、というのが今回のアプローチでした」と返した。
そして最後の1問は「中学生とか高校生くらいの若い人がもしいらっしゃったら」という坂元のリクエストにより、若い観客からの質問で締めくくることに。その観客はこれまで映画『怪物』『ファーストキス 1ST KISS』、そして今回の『片思い世界』と3本の坂元作品を鑑賞してきたとのことで、それぞれ作風が違うのにもかかわらず、どれも“坂元作品”であると感じられた、ということを踏まえて「作品をつくる上で持っている芯の部分は?」
と質問。
「あまりないです」と返した坂元。「それは自分ではいい意味で解釈しているのですが、僕は人が好きなのであって、あまり自分自身には興味がない。だから自分のことを書きたいと思ったことはほとんどないし、誰か面白い人を見つけたときに、この人のお話をつくりたいなと思うことが多いです。この人の面白さは自分しか気付いてないんだろうなとか。『花束みたいな恋をした』なんかもそうなんですけど、自分の知り合いの男女がいて、そのふたりが飲みながら、ずっとカルチャーの話をしているんですよね。この姿を誰も映画にしようとは思わないだろうけど、僕は、これは面白くなるんじゃないかと思った。そういう関心から来ているんですけど……でも『花束~』は観てないんですよね」と笑いつつも、「面白い人を見ると、その人について描写したくなる。それが自分の癖なんです。だから書いているものはバラバラだったりしますが、それは人間が好きだから、という長所だと思っています」と説明。
坂元の回答を受けた観客が「それは絶対に長所だと思います。わたしは(坂元が)面白い人だと思っているので、ぜひ自分の映画も……つくりたかったら、ですけど」と返して会場は大笑い。それには坂元も笑いながら「今後、これがわたしの話です、というのをちょっと考えてみます」と返してみせた。
まだまだ大勢の観客が質問のために挙手をしていたが、残念ながらここで時間切れ。最後に坂元が「こういうお話ですが、新しい社会や新しい学校など、いろんなところで新しい関係をつくる時に、この人に自分の言葉が届かないんじゃないかとか、上手く付き合っていけないんじゃないかとか、社会との関わりにおいて、人は“片思い”を持っていたりすると思うので。そういう方々の後押しになれたらいいなと思ってつくった面もたくさんあります。皆さんの勇気が出るような映画になれたら幸いです」とメッセージを送り、イベントを締めくくった。

<STORY>
現代の東京の片隅。 古い一軒家で一緒に暮らす、美咲(広瀬すず)、優花(杉咲花)、さくら(清原果耶)。 仕事、学校、バイト、それぞれ毎日出かけて行って、帰ったら3人一緒に晩ごはん。 リビングでおしゃべりして、同じ寝室で寝て、朝になったら一緒に歯磨き。 お互いを思い合いながら穏やかに過ごす、楽しく気ままな3人だけの日々。
だけど美咲には、バスで見かけるだけの気になる人がいて、そのことに気がついた2人は…。 もう12年。家族でも同級生でもないけれど、ある理由によって強い絆で結ばれている3人。 それぞれが抱える、届きそうで届かない〈片思い〉とはーー。
映画『片思い世界』
主演:広瀬すず、杉咲花、清原果耶
監督:土井裕泰
脚本:坂元裕二