作・阿部暁子『カフネ』2025年本屋大賞を受賞! 「食」と「愛」で心を癒す注目作が栄冠
2025.4.9 20:00
4月9日「2025年本屋大賞」の発表会が実施され、大賞受賞作が阿部暁子『カフネ』(講談社)に決定した。
本屋大賞は、出版業界活性化のため、年に一回全国の書店員が一番売りたい本を投票で選出。第1回大賞受賞作『博士の愛した数式』小川洋子、第2回『夜のピクニック』恩田陸、第3回『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』リリー・フランキー、など受賞とともに話題となり、大きく部数を伸ばしている。
今回は一次投票には全国488書店より652人、二次投票には336書店より441 人もの書店員が参加した。

◆食が繋ぐ愛の物語 『カフネ』あらすじ
最愛の弟が急死した。29歳の誕生日を祝ったばかりだった。姉の野宮薫子は遺志に従い弟の元恋人・小野寺せつなと会うことになる。無愛想なせつなに憤る薫子だったが、疲労がたたりその場で倒れてしまう。
実は離婚をきっかけに荒んだ生活を送っていた薫子。家まで送り届けてくれたせつなに振る舞われたのは、それまでの彼女の態度からは想像もしなかったような優しい手料理だった。久しぶりの温かな食事に身体がほぐれていく。そんな薫子にせつなは家事代行サービス会社『カフネ』の仕事を手伝わないかと提案する。
食べることは生きること。二人の「家事代行」が出会う人びとの暮らしを整え、そして心を救っていく。

◆社会派小説としての側面も
『カフネ』は、現代社会が抱える様々な問題を描きつつ、食を通じて人々の心を救う物語として評価された。講談社の担当編集者は「『カフネ』は『For you=誰かのために生きる』ことを描いた物語です」と語り、「誰かと食べるご飯はおいしいし、誰かのために作るご飯もおいしい。自分のための物語は重要だけど、大切な誰かに届けたい本もきっと嬉しい。『書店さんがいちばん売りたい本』もきっと『For you』なのだと思います」と伝えた。
『カフネ』は単なる料理小説ではなく、現代社会の問題を扱った社会派小説としての一面も持つ。作中には離婚、自殺、不妊治療、ネグレクト、介護、貧困、毒親問題、男女格差、家族関係など、現代社会が抱える様々な問題が描かれている。編集者は「『カフネ』という言葉に象徴されるように、この小説は、この世界を生き抜くための『愛と慈しみ』を感じ、読み終えたあと、きっと明日の世界が少し良くなる物語です」と語った。

本作では、主人公の薫子とせつなという二人の女性の関係性が重要な要素となっている。編集者は「二人の関係性は二人にしかわからず、誰しもが唯一無二の関係だからです。人と人とは分かり合えないし、分かり合えたと思ってもそれはいっときのものかもしれない。だけれど、誰かが誰かを大切に思うその気持ちは真実で、その気持ちや関係性にラベリングをすることはできない」と説明した。
『カフネ』公式サイトでは料理レシピや登場人物紹介などの関連コンテンツを公開しており、作品世界をより深く楽しむことができる。
【阿部暁子(あべ・あきこ)Profile】
岩手県花巻市出身、在住。2008年『屋上ボーイズ』(応募時タイトルは「いつまでも」)で第17回ロマン大賞を受賞しデビュー。著書に『どこよりも遠い場所にいる君へ』『また君と出会う未来のために』『パラ・スター〈Side 百花〉』『パラ・スター〈Side 宝良〉』『金環日蝕』『カラフル』などがある。本作『カフネ』で第8回未来屋小説大賞、第1回あの本、読みました?大賞、2025年本屋大賞を受賞。
写真提供:講談社
提供:講談社
キーワード
ジャンル
- エンタメ