「お客様はソファです!」ワンシチュエーション会話劇『ビューティフル・サンデイ』に挑む美弥るりか・君沢ユウキ・大平峻也に独占インタビュー
2024.6.27 16:30男は怒り、女はとぼけ、ゲイは笑う。素晴らしき日曜日――――
舞台『ビューティフル・サンデイ』が石栗昌彦の演出により7月25日から六本木トリコロールシアターで上演される。
初演は2000年。その後何度も再演されている中谷まゆみ作のこの戯曲にはファミレスの店長・秋彦、見知らぬ女・ちひろ、秋彦と同せいしている画学生の浩樹という3人しか登場しない。それぞれに「ワケあり」の3人がひょんなことから一緒に過ごすことになった日曜日をワンシチュエーションの会話劇で描く。
entaxは『ビューティフル・サンデイ』の稽古場を独占取材。今作で初めてプロデューサーを務める美弥るりか、共に舞台に挑む君沢ユウキ、大平峻也に話を聞いた。はたして、愛すべき「すったもんだ」の顛末(てんまつ)は?
―――稽古初日とうかがいましたが、お互いの印象は?
美弥:お2人の舞台は拝見したことがあったのですが、君沢さんは笑顔が素敵で「(のけぞりながら)眩(まぶ)しい!」ってなりました。想像していたよりも100倍爽やかでした。
君沢:ありがとうございます(笑)
美弥:大平くんは歌とダンスを見て素晴らしいパフォーマンス力だと思っていて、こういう歌もダンスもないお芝居をどういう風にされるんだろうと思っていたのですが、ぴったりでした。儚(はかな)さがあって。
大平:儚(はかな)いですか!?金髪だからでは?
美弥:(笑)これからがすごく楽しみになった1日でした。
君沢:美弥さんとは今日初めての顔合わせで、すごくやわらかで自分のペースをもってそこにいる方。初日なのですがホッとするというか、これからいろいろ話して一緒に作っていけるんだろうなという印象です。
大平:顔合わせってだいたい「〇〇役の○○です」って自己紹介の後に一言くらいあいさつ挨拶があるんですが、今日はいきなり本読みが始まったので美弥さんがどういう人なのか知らないまま…
君沢:確かに(笑)
大平:緊張したまま始まったんですけど(笑)とあるシーンの稽古で美弥さんを見たら本当に涙を流してくださっていて。愛情深い人なんだなと思いましたし、僕は心がスッて軽くなりました!
美弥:3人芝居で誰かが難しい人だと…
君沢:大変な空気になりますから(笑)
―――お話にも出ましたが3人だけのお芝居、役どころを教えてください。
君沢:戸川秋彦という37歳のファミレス店長です。真面目で不器用な、いじらしい人を目指していきたいなと。けしてコミュニケーションが上手ではないですが、隣にいる浩樹(大平)をすごく大切にしていて、でもやっぱり不器用で。そこがいじらしくかわいい男に見えてくればいいなと思っています。
―――キャッチコピーの「男は怒り…」の「男」と言うのは
君沢:僕ですね(笑)台本で怒り散らかしてるんで…
美弥:最初の頃、ずっと怒ってますよね。
君沢:ちひろ(美弥)にね!いきなり転がり込んでくるので。
美弥:私はとぼけ続けます
君沢:こっちからしたらとんでもない女だなと、常識外の人が来ちゃうんで最初はぎゃんぎゃん言っているんですが。彼女の素っ頓狂(すっとんきょう)さにお客さんも「何でこんなことをするんだ」と思うかもしれないですが、あとから理由も分かってくるので、最初のうちはお客さん代表として「なんなんだお前は!」と言わせてもらいます(笑)
―――その「素っ頓狂(すっとんきょう)な女」役の美弥さんはいかがですか?
美弥:公務員です!
君沢・大平:(笑)
美弥:地に足はついていないんですが(笑)危うさというか、彼女が抱えている大きな悩みによって自暴自棄になっているのかなって。乗り越えようとしているけど、そんな自分も受け入れられずにお酒いっぱい飲んじゃって、どうにでもなれ!みたいな。すごく寂しいですよね、彼女はずっと。愛情を欲しがっていて愛し愛される人がいたらいいなと願っている。とあることをきっかけに2人のお家に転がり込み、しかもそこに居座り続ける神経の持ち主です(笑)
君沢:紐解(ひもと)くと居続ける理由もあって、ただの図太い人ではないなというか。
美弥:そうですね。最初の印象はとんでもなく嫌な女性に見えるよう演じていきたいですし、でも彼女が持つ繊細な部分や愛情の深さを2人との会話によって表現に生かしていきたいなと。普段歌ったりする舞台が多くてオーバーに表現することに慣れすぎてしまっているのですが、今回はそういうものを全て脱ぎ、素直な気持ちで自分なのかちひろなのか分からなくなるような、心震える瞬間を味わえたらいいなと思っています。
―――大平さんはいかがでしょうか?
大平:小笠原浩樹は、繊細だなって思います。繊細だからこそ明るくしてみたり、気が張り詰めているところをほどいてみたりしながら成長しているんだなと台本を読みながら感じていて。浩樹は絵を描くんですけど僕は絵が下手なので…
美弥・君沢:(笑)
大平:舞台上で描くシーンがなくてよかった!
君沢:ホッとしてた?
大平:はい(笑)たぶんこれ(ゲイという設定)は、(初演の)2000年代のときはすごくシビア、今もシビアですけど、より言い出せないことだったと思うんですよ。時代が変わってきて少しずつ人に受け入れられるようになってきて、だからこそ今この役をやる意味があるなと感じています。正直、まだ気持ちは100%分かるわけではないけれど、この作品を見たときに相手のことを人として愛するというか。秋彦もそうだし、僕もそうだし、男女の前に「人として」というところをしっかり感じた上で演じていきたいです。
―――今回はワンシチュエーションの会話劇ということですが、大変だったり面白かったりするところは?
美弥:私はそもそもワンシチュエーションが初めてです。転換もなくて、1つの部屋だけでという状態が初めてなので、どんな景色なのかワクワクはありますね。
君沢:本当に出ずっぱりで舞台にあがったら捌(は)けることもなく進んでいくのでフィジカル的には大変かもしれないですが、逆にぜいたくですよね。普通だったら10人、20人、30人で作るものを、3人だけでじっと見ていただける。この距離感だからこそ吐息やそこにある感情を見てもらえる。歌も殺陣もダンスも削(そ)いで鎧も落として3人それぞれが舞台に立っている、それを見に来ていただけるということがうれしいです。めちゃめちゃワクワクしています。
大平:もう舞台上に行ってしまったら何が起こっても3人で何とかするしかない。だからこそ楽しめるなってすごく思うんです。極端に言うと僕のセリフが飛んだとしてもカバーできなかった2人のせいですし…
美弥・君沢:(笑)
君沢:稽古初日に言ってくれるじゃないか!…お互いさまでよろしくね。
大平:(笑)
役同士だけじゃなくて役者本人同士が心のコミュニケーションを取れていれば取れているほどいい作品になると思うので、そこがすごく楽しみです。
―――上演する劇場はお客様と距離の近い環境でもありますね
美弥:そうなんです、180人くらい。
君沢:どの席に座ってもS席みたいな。
美弥:確かに!
君沢:舞台というより映画のスクリーンの中に、僕たちのそばに飛び込めるような感覚があるんじゃないかと
―――もはや家具の一部のような気持ちで…
美弥・大平:(笑)
君沢:そうですね、もうソファとして来てください!
美弥:ソファとして(笑)
君沢:上手ソファになり、下手ソファになり…ソファです、お客様は(笑)
美弥:決まりましたね。気になってしょうがない、その記事(笑)
大平:「お客様はソファです」が見出し?(笑)舞台ならではの空気感は毎回違うでしょうし、こういうお芝居だと繊細に心が動いていくと思うので、表情や後ろ姿から伝わるものはこの劇場だからこそ感じ取れることがたくさんあるんじゃないかなと思います。なので普通に1回見に来てくれてもうれしいですし、1人1人を追った回を過ごしてもらってもいいですし。三者三様の感情や悩みがあるので楽しんでもらえるんじゃないかな。
―――今作は美弥さんがプロデューサーを務めるということですが、いかがですか?
美弥:そのような形で名前を出していただけることになり…自分が芸能生活21周年目を迎えて、芝居の基礎とか「演じる」とはどういうことなのかを考え直して、だったら自分がやりたい作品を選んでみようと思いまして。いろんな脚本をたくさん読んで、この作品に決めて、キャスティングも関わり、こんなに素敵なお2人が引き受けてくださって。
君沢:ありがたい…
美弥:(笑)
チラシのデザインも一緒に作り、リリースの文章も「どう書いてあったら皆さんが興味を持ってくださるかな」と考えて。観客の気持ちになりながら、演者、そして作り手側にもなれたという新しい形で携わらせていただきました。
―――読者にメッセージを
大平:20年間語り継がれている作品ですが、この時代だからこそより知ってもらいたいなと思っています。人生、生きていればおのおの悩みがあって、見てくださる方にも1人1人に違う悩みがあって。その中で最終的に人がいとおしく思えるような、私も悩んでるけど、俺も悩んでるけど、でも世界は明るいなと感じていただけるような温かい作品になると思うので、ぜひ何度でも見に来ていただければうれしいです。しっかりがんばります!
君沢:ご飯で言うと作られたものをそのまま提供するのではなくて、いま目の前で作って「こんな料理になったよ」というものを一緒に楽しんでもらえる作品になると思います。目の前で心を動かして、感動して、どんな感想を持ってもいい。今日はこんな発見があったね、今日は浩樹が「お母さん」に見えたねとか、秋彦とちひろが惹(ひ)かれあうように見えたねとか、なんでもいいんです。「足りない人たち」が頑張っている姿や揺れている姿を本当に近距離で、僕たちがウソなく感じていい時間をたくさん生み出したいです。39歳なんですが新人のつもりで、鎧(よろい)を全部脱いで飛び込んで、それをさせてもらえる幸せを感じているところです。ぜひ4人目の出演者の気持ちで来ていただければと思います。
美弥:お2人とは今日初めてお会いしたのに、そんなに温かい言葉を聞けて作品に対する愛情を持ってくださったことに感謝しています。初めてこの作品に触れたときに、誰かの気持ちになって読んだというより1人の観客として読んでいて、読み終えたときに本当に簡単に言ってしまうと生きる勇気や希望をいただけたんです。「こんな私でもいいんだ」と思えて。人に言えない自分の弱さであったり、誰にも見せない悲しみや悔しさを抱えた夜もあるじゃないですか。誰もがそんな人生を過ごしている中で、私もそんな自分を受け入れて明日も生きてみたいと思えたんですよね。お客様にも、楽しみで舞台を見てくださっている裏側にはそれぞれの人生があって色んな思いを抱えていらっしゃると思うんですけど、そんな皆様が劇場を出て行くときにはちょっと明日が楽しみになったらいいなとか、私が感じた希望を少しでも持って笑顔で帰っていただけたらいいなと思っています。役者として、企画として入った作品が皆様の元に温かい気持ちとして一緒に届くように、精一杯初日まで頑張ります。君沢さんと大平くんを推している皆様は、こんなに近い距離でお2人を堪能できる機会も少ないと思いますので…
君沢・大平:(笑)
美弥:きれいな肌を近くで見ていただけたら(笑)
この作品を愛していただけたら、この3人の人間らしさを愛していただけたらうれしいです。
■舞台概要
舞台「ビューティフル・サンデイ」
出演 美弥るりか 君沢ユウキ 大平峻也
2024年7月25日~8月4日
六本木トリコロールシアター
HP