戦禍の中の『ウクライナ国立バレエ』がこの冬注目の日本公演ツアー開催!日本人芸術監督が思い語る

2023.9.6 16:00

今年7~8月、『ウクライナ国立バレエ(旧キエフ・バレエ)』が日本を訪れ、『スペシャル・セレクション2023』の公演を行った。ロシアによるウクライナ軍事侵攻から1年以上がたった今も終わりが見えない中、団員らは夏の公演のため来日。現在、キーウからの直行便がないため、ダンサーらは、キーウからポーランド・ワルシャワまで12時間をかけて、バスと電車で移動したという。その後、ドイツなどを経由して35時間以上の時間をかけて日本へたどり着いた。

旧ソビエト連邦の3大バレエの1つとして知られる名門バレエ団『ウクライナ国立バレエ』のトップ・芸術監督を務めるのは寺田宜弘さん。寺田監督は去年12月、日本人として初めて芸術監督に任命された。バレエ留学のため11歳で単身ウクライナ・キーウに渡り、日本人で初めて旧ソ連国費留学生としてキーウ(キエフ)国立バレエ学校で学んだ寺田監督。卒業後は、ウクライナ国立バレエでダンサーとして活躍。その後は、副芸術監督として活動していた。芸術監督に任命されてから約7か月。戦争の影響を受ける過酷な状況ながらも、夏の公演では、新作バレエを披露するなど勢力的に活動を続けている。

ウクライナ国立バレエ『スペシャル・セレクション2023』舞台練習の様子がマスコミに公開

寺田宜弘芸術監督(ウクライナ国立バレエ)
「150年の歴史があるウクライナの、ナショナルオペラの劇場の芸術監督になることは、非常に名誉なことでもあって、非常に重いことです。団員の人生・命を預かっていかないといけない。現在、私が非常に幸せだなと思うことは、残ってくれたダンサーは10代・20代と若いんです。この団員たちは、非常に自分の国を大事にし、愛国心が強く、自分の国や芸術を、今まで以上に素晴らしいものにしていきたい、今まで以上に世界の人に愛して欲しいという気持ちを持っている団員なので、そういう団員たちと一緒に仕事が出来ることは、とても芸術監督として喜ばしいです」

寺田宜弘芸術監督

夏の公演に続き、ウクライナ国立バレエは、今年12月から来年1月にかけて、約3週間にわたり、全国9都市10か所で、17公演の全幕バレエの来日公演が予定されている。演目は、『雪の女王』、『ジゼル』、『ドン・キホーテ』の3つ。バレエ団の団員、オーケストラ、技術スタッフら約130人が来日し、本格的な公演を行う。

ウクライナ国立バレエ『雪の女王』

今回日本で初めて上演される『雪の女王』は、同タイトルのアンデルセン童話が元になったウクライナ国立バレエのオリジナル作品。音楽はヨハン・シュトラウスなどの作曲家による既存曲が使用され、公演以来キーウでは冬の風物詩として繰り返し上演されている人気の演目だ。子どもから大人まで幅広い年齢層が楽しめるというこの作品。タイトルロールの『雪の女王』として出演するダンサーが魅力を語った。

アナスタシア・シェフチェンコ

アナスタシア・シェフチェンコ(ウクライナ国立バレエ プリンシパル)
「非常に華やかで、きれいな舞台セットを使っているのも見所の1つ。主役だけではなく、山賊などのキャラクターが出てくるのも魅力があると思います。どの年代でも楽しめるので、日本のみなさんにも楽しんでいただきたいです」

冬の公演でもう1つの注目の作品『ジゼル』。19世紀を代表するロマンチック・バレエの傑作。日本のバレエファンからの義援金によって新しく制作された舞台セットが初めてお披露目となる。企業や団体を含む数多くのバレエファンから寄せられた義援金は1702万9388円にもなり、劇場に送られたのだ。

ウクライナ国立バレエ『ジゼル』

寺田監督は、日本のバレエファンらからの応援を受けていることについて感謝の気持ちを述べた。

寺田宜弘芸術監督
「私たちの活動場所は舞台の上です。舞台の上で戦い、素晴らしい芸術の力で、1日も早く平和な日が来るのを祈りながら、毎日私たちは踊っています。そして、ちょうど1年前になりますが、戦争が始まってから最初の海外公演というのは日本でした。それは本当に歴史に残る海外公演だと私は思います。日本国民の力で、今のウクライナのバレエがあるといっても私はいいと思います。団員一同、日本の多くのバレエファンの人たち、日本の国民に感謝の気持ちを込めて、“ウクライナの素晴らしい芸術を今まで以上に日本の人たちに知って欲しい”と、そういう気持ちで踊ると思います。多くの日本のバレエファン、そして初めてバレエを見に来られる方、心が熱く、良い思い出がたくさん出来る舞台になると思いますので、ぜひとも公演には多くの日本の人たちに見ていただきたいと私は思っています」

いまだに、空襲警報がなる中での練習を余儀なくされているバレエ団。その過酷な状況についてダンサーが語った。

ニキータ・スハルコフ

ニキータ・スハルコフ(ウクライナ国立バレエ プリンシパル)
「キーウの町には毎日空襲警報が鳴り響いています。しかし、それにもかかわらず劇場は通常通りの仕事をしています。練習だけでなく、毎週数回の公演もあります。長年築いたウクライナのバレエは、私たちがいなければ消えてしまいます。それを私たちは守らないといけないというミッションがあります」

アナスタシア・シェフチェンコ(ウクライナ国立バレエ プリンシパル)
「侵攻が始まった当初は、一旦ウクライナの国外に避難しました。しかし、しばらくした後、ウクライナに戻り、バレエを続けることを決心しました。私たちはみな、命もそうですが、自分の将来はどうなるのかという非常に強い不安を持っていました。しかし、仕事がある、バレエがあるからこそ、生活の支えにもなっています。バレエのおかげで乗り越えることが出来ます」

ウクライナ国立バレエ『ドン・キホーテ』

困難を極める中でも、新人ダンサーの活躍にも目が離せない。カテリーナ・ミクルーハ(18)は、キーウ国立バレエ学校を首席で卒業し、ウクライナ国立バレエに入団。その後すぐに戦争が始まったため、オランダ国立バレエで研鑽(けんさん)を積み、昨年夏の来日公演でもフレッシュな大型新人として注目を集めた。冬の公演では、日本のファンの前で『ジゼル』と『ドン・キホーテ』の2作品で初めて主演を務める。

カテリーナ・ミクルーハ

カテリーナ・ミクルーハ(ウクライナ国立バレエ ソリスト)
「主役を演じることは、とても責任があります。その責任感に負けないように私自身も楽しみたいと思います。日本の観客はとてもあたたかく歓迎して下さっているので、その気持ちに応えたいと思います。注目して欲しいことは、もちろん舞台全体ですが、踊っている私たちのエネルギーや感情、気持ちがどれだけ観客に伝わるかを見て欲しいです」

エンターテインメント界に大きな影響をもたらしたコロナ禍が収束しないまま、昨年、ロシアによる侵攻が始まった。今年の冬の公演では、出演者の安否を始め、舞台セットの輸送問題、入国ビザ発行の問題、戦争によるさまざまな物価高騰など、これまでの来日公演に比べると何倍もの困難を極めているという。

また、ダンサーたちにも、政府から戦争支援の要請が活発になり、いわゆる“召集令状”が発令されてきていることも明かされた。夏の公演に参加できなくなったダンサーもいる。バレエ団は「今後も長引く戦争はどのような形で影響していくかは分からないが、劇場と協力して日本公演にむけての努力を続けていく」としている。

ウクライナ国立バレエ『スペシャル・セレクション2023』舞台練習の様子がマスコミに公開

寺田宜弘芸術監督
「戦争の中、団員一同1つになって、素晴らしい芸術、ウクライナの芸術を今まで以上に世界の人に見ていただき、愛していただくのが今の私の大きな夢でもあります。日本に来るということは、団員たちにとって本当に夢のようなことです。今ウクライナに残っている団員たちは、非常に若く、自分の国や文化を愛している素晴らしいい団員たちです。きっと、この若い団員たちは次の世代へと続く、ウクライナの芸術を守ってくれると思っています。ウクライナ芸術を大切にし、守り、今まで以上に素晴らしい劇場にしていきたいと思います」

ウクライナ国立バレエ

■ウクライナ国立バレエ(旧キエフ・バレエ)冬公演

『雪の女王』『ジゼル』『ドン・キホーテ』
2023年12月23日(土)~2024年1月14日(日)
東京、埼玉、群馬、大阪、京都、和歌山、岡山ほか 全国9都市17公演

写真提供:光藍社

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