柿澤勇人に単独インタビュー 役柄の本質が大事「太ろうかなと思ったこともあるんですけど、違うなって」
2023.8.25 15:00新型コロナウイルス感染拡大による全公演中止という苦境を経て今夏、ミュージカル『スクールオブロック』が上演されている。舞台は2000年代初頭のアメリカ。ひょんなことから名門進学校の臨時教師員となった落ちこぼれロックミュージシャンのデューイ・フィンが、ロックを通じて生徒たちの個性や才能を見出し、自分らしく生きるロック魂を伝えるストーリーだ。
大ヒット映画『スクール・オブ・ロック』のミュージカル版として2015年にアメリカ・ブロードウェイで上演され、日本版キャストでの日本上演は初めてとなる。デューイ役を西川貴教とのダブルキャストで演じる柿澤勇人に、役への向き合い方や自身の子ども時代の思い出を聞いた。(取材は2023年5月に実施)
■舞台にドラマに連日現場詰めで稽古はこれから
役づくりの切り替えは「お酒を飲みまくるとかですかね(笑)」
―― 2020年にコロナ禍の影響で全公演中止となってしまった『スクールオブロック』。
リベンジ公演となる今回ですが、稽古の状況はいかがですか?
(5月中旬現在)今日ちょうど台本が届いたところなんです!
イベントで披露する場面の稽古はありましたが、ちゃんとした稽古はこれからですね。
―― これからなのですね?!
公演は8月17日からなので3か月前です。稽古は短期間なのですね。
通常通りかなって思います。他の作品でも稽古はだいたい1か月半とかですかね。
―― 4月末に2か月に及ぶミュージカル『ジキル&ハイド』の公演を完走されて、今度は『スクールオブロック』。演じるキャラクターが違うので、切り替えがたいへんですね。
実は今はドラマを撮っているんです。
『ジキル&ハイド』が終わった翌日からドラマの撮影に入ったので、休む間もなくっていう感じでした。(演じることは)心と体を使うから、やっぱりどっかでいったんリセットする時間がないとシンドイかもしれませんね。
―― 役づくりの切り替えをするための、柿澤流リフレッシュ方法は何ですか?
お酒を飲みまくるとかですかね(笑)。
―― 何を飲まれるのですか?
焼酎です。ひたすら芋。
今すごくフルーティーでおいしいのがどんどん出ているんですよ。これほんとに芋なの? っていうような、ちょっと麦っぽさもある感じのとか。
そういうのをソーダで割って飲んでいますね(笑)。
■本質は「自分がどうしたいのかを解放して生きていくのが一番いい」というメッセージ
―― 『スクールオブロック』で柿澤さんが演じるデューイ・フィンは、二日酔いをして遅刻するような、ちょっとだらしないタイプです。柿澤さんのイメージと真逆な感じがするのですが。
いや、僕も二日酔いみたいな感じだし、でもそういうだらしないところは誰にでもあると思うんですよね。僕の経歴を見るとミュージカルや舞台をやっていたりすることで、なんかこうキレイというか、そういうイメージもあるみたいなんですけど、僕自身は全くそういうところはないんです。
例えば映画ではジャック・ブラックがデューイ役を演じていて、彼は太いですしモジャモジャ系だしクマさんみたいな感じ。ジャック・ブラックが演じたがゆえのデューイのイメージはあると思います。けれど『スクールオブロック』は自分がどうしたいのかを解放して生きていくのが一番いいんじゃない!?、というのが大きなテーマだと思っていて、そういった本質に着目するとデューイが太っている意味もそんなにないんです。
(太っていることに関わる)セリフがあるんだったら、それも変えちゃえばいいって思っています。
―― 映画や海外上演など先行する作品があるとイメージが先だってしまって、役づくりで苦労しませんか?
それは海外作品を輸入して日本版をやるときによく苦労することなんです。
例えば、ミュージカル『メリー・ポピンズ』のバート役を演じた時、映画ではディック・ヴァン・ダイクがバートを演じていて、彼は当時の僕よりおっさんだしダンディーだしセクシー(笑)。
だけど僕はそんなものは持っていなくて、じゃあどうするのってなった時、メリー・ポピンズのバートっていうキャラクターの本質に寄せていった。
(イメージより)そこを大事にして演じたほうが、その役が生きていくんじゃないかって考えたんです。
今回も一度、太ろうかなと思ったこともあるんですよ。けど、いや違うなと思って。
もちろん(先行するイメージの)良いところはいくらでもパクリたいですけど(笑)、それこそダブルキャストの西川貴教さんのデューイも全然違うものになると思いますし、(本質を大事にすれば)別にセリフも変えてもいいと思っています。
―― 柿澤デューイが楽しみですね。ところでデューイは、とてもエネルギッシュなのですが、どんな準備をされていますか。
そう、デューイはとてもとてもテンションが高い(笑)。
僕の普段のテンションがここ(腰辺りを示して)だとしたら、デューイはここらへん(頭の辺りを示して)のレベルで生きている人間なので、そこはたぶん、大変というか、体力的にきついのかななんて思いますね。
準備は……ほんと、健康でいることです(笑)。
地方も含めて約2か月間の公演を完走できるくらいの“心と体の健康維持”みたいなことをできる限りやっておきたいという感じですね。
ドラマ撮影の合間に運動も始めています。あと、ギターの練習もしなきゃいけない。
■コロナ禍の全公演中止で、ギターに「全く触りたくなくなっちゃった。見たくもない、みたいな」
―― そうでした。デューイはギタリストで、子どもたちをロックの世界に誘うのにギターが鍵になりますね。柿澤さんのギターの腕前はいかがですか?
前回「『スクールオブロック』をやるよ」と言われる前まではギターに触ったこともなかったんです。だから(稽古に入る)1年くらい前からかな、ずっと練習していて、デューイが弾く楽曲は弾けるようになっていました。けれどコロナでバンって中止になって、そこから全く触りたくなくなっちゃったんですよ。ギター見たくもない、みたいな。
だからまた練習しないとなって、最近、家で触ったりしています。
けど、さっき台本を読み返したら、芝居中に(練習した楽曲以外の曲を)普通にさらっと弾くような場面もあったりするから、そういうのはどうするんだろうな(笑)。
―― 芝居中には、たくさんのロックグループやアーティストの名前が登場しますね。柿澤さんご自身は、ロックは聴かれるのですか?
好きですよ。ロックばかり聴いています。グリーン・デイとか、オアシスとか、リンキン・パークとかかな。UKも聴くし、アメリカのロックも聴きます。
僕はどこへ行くにも自分で運転するんで、だいたい車の中ですかね。
体を起こさなきゃって時にも、仕事前とか楽屋でも聴きます。
―― もし柿澤さんの子ども時代に、デューイみたいな先生に出会っていたら影響されたでしょうか。
いやあ、どうですかね。僕はわりと自由な学校に通っていて、規則のようなものがあまりなかったんです。髪の毛がピンク色の人もいたし、デューイほどじゃないですけど破天荒な先生もたくさんいましたね。
例えば美術の時間に“彫塑の時間”って粘土で彫刻の原型をつくる授業があって、彫塑の先生なんかはアーティストって感じでしたね。ちょっと怖かったですけど(笑)。
あと、“父親”みたいな恩師もいて、その先生には毎年北海道に連れて行ってもらったりしていました。その先生には本当にいろんなことを教わったな。
その先生は体育の先生だったんですが、うちの学校は体育の先生だから体育の授業だけっていう感じじゃないオールラウンドな人が多くて。家のことや恋愛のこと、性のこと、といったプライベートなこととかも何でも話せましたね。
今でも小学校の頃の先生は、担任も、音楽の先生も合唱部の先生も、僕の舞台を全部観に来てくれています。
何でも話せるような先生が周りにたくさんいて、僕は恵まれていたと思います。
■ミュージカル『スクールオブロック』
<東京公演>
期間:2023年8月17日(木)~9月18日(月祝)
会場:東京建物Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
主催:ホリプロ/フジテレビジョン/TOKYO FM/キョードーファクトリー
企画制作:ホリプロ
<大阪公演>
期間:2023年9月23日(土祝)~10月1日(日)
会場:新歌舞伎座
主催:関西テレビ放送 新歌舞伎座 サンライズプロモーション大阪
<キャストとスタッフ>
出演:
デューイ・フィン役:西川貴教/柿澤勇人(Wキャスト)
ロザリー・マリンズ役:濱田めぐみ
ネッド・シュニーブリー役:梶 裕貴/太田基裕(Wキャスト)
パティ・ディ・マルコ役:はいだしょうこ※/宮澤佐江(Wキャスト) ほか
※はいだしょうこ:ロザリー・マリンズ役カバー
音楽:アンドリュー・ロイド=ウェバー
脚本:ジュリアン・フェロウズ
歌詞:グレン・スレイター
翻訳・演出:鴻上尚史
【柿澤勇人 Profile】
1987年生まれ、神奈川県出身。高校1年時、授業の一環で観劇した劇団四季ミュージカル『ライオンキング』に衝撃を受け、2007年に劇団四季入所。退団後はミュージカルや舞台のほか、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の源実朝役など、テレビドラマや映画など映像作品にも活躍の場を広げる。2023年には20年以上上演が続くミュージカル『ジキル&ハイド』の主演を、鹿賀丈史、石丸幹二に続く3代目として引き継いだ。来年1月には三谷幸喜氏新作舞台『オデッサ』にて主演を務める。