新フック船長を演じる小野田龍之介 「火の用心」が見たくてミュージカル俳優になった?!

2023.7.29 18:00

ミュージカル通にとって「夏と言えばピーター・パン!」の季節がやってきた。コロナ禍で1度中止になった以外は毎年公演を続け、今年で43年目を迎える日本版ブロードウェーミュージカル『ピーター・パン』。2023年は、11代目として初のピーター・パンに挑む山﨑玲奈をはじめキャストを一新し、長谷川寧(はせがわねい)による新感覚の演出で生まれ変わる。中でも注目は、フック船長役に新しく起用された小野田龍之介だ。既にビジュアルなどで一味違うセクシーなフック船長を披露している。小野田龍之介とはどんな役者なのか。6月初旬、entax取材班は稽古場を直撃した。

「普通の人の役ってどうやるんだっけ?」 『マチルダ』が終わったばかりの小野田は悩む

――稽古前にすみません。取材を受けていただきありがとうございます。

いえいえ、大丈夫ですよ。取材だったからセリフ覚えていませんって言えるし(笑)。

――(初対面にして親しみやすさ全開の小野田に質問を開始)ミュージカル『マチルダ』の舞台が終わってまだ3日ですが、もう『ピーター・パン』のお稽古なのですね。

はい。昨日からです。

――『マチルダ』では、生徒を支配するエキセントリックな女教師、トランチブル校長を演じられました。短時間での気持ちの切り替えは大変ですね。

そうですね。特に『マチルダ』は、稽古を含めて半年間演じていた役なので、なかなかトランチブル校長が取れないです。だから今、普通の人の役ってどうやってやるんだっけっていうのを試行錯誤中ですね。

――フック船長も普通の人じゃなかったりしますよね。

そうなんですよ。でも、トランチブル校長からするととても普通の人なので(笑)。それに、まずは男性を演じるっていうところをですね、今は頑張って一歩ずつやっています。

ミュージカル『マチルダ』で小野田が演じたトランチブル校長(右)

――「男性を演じる」といえば、先日公開されたフック船長のビジュアルは男色っぽい感じでした。撮影時に演出家の長谷川寧さんに「男性下着の広告みたいに」と言われたと聞いていますが。

そうなんです。僕はその撮影の時に初めて、長谷川さんにお会いしたのですが、男性下着のモデルっぽくっていうのがすごく分かりやすかったです。

これまでピーター・パンもフック船長も、演出家によって描かれ方とか作られ方が結構違うんですよ。白塗りしてポップな感じだったり、劇画っぽかったり、映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』が流行った時は海賊ジャック・スパロウっぽかったり。なので、今回のフック船長はそっちじゃないんだなって。

――どっちですか?

高貴性とか、男性っぽさですね。

フック船長って悪役で海賊だから、ガハハハハッていう印象が強いかもしれないんですけど、彼は上流階級の高貴な人間で、かつ色気があって男性的なんです。ビジュアル撮影では、そういった要素を求められたんだなと思いました。

もしかしたらそれは、僕の年齢とフック船長というものの相性を考えてかもしれないですけど、なるほどなって非常に納得したんですよ。 まだお稽古が始まったばかりなので、芝居上でどういう風に作られていくか分からないですけど、世界観を分かりやすく提示してくれる演出家だなって感じました。

――『ピーター・パン』初演出の長谷川寧さんとの舞台づくり楽しみね。高貴なフック船長ってどんな感じになるのでしょう。

ちょっとミステリアスでエキゾチックな感じを求めつつみたいな。それから、言葉遣いかな。 芝居作りもこれからなので安易には言えないんですけれど、『ピーター・パン』の舞台はイギリスなので、イギリスの高貴な人の言葉遣いって非常に独特だったり、特にフック船長みたいなちょっと皮肉めいた役は、いかにいやらしくしゃべれるかみたいな感じもあるなと思うので。

――男性っぽさとか、男性の色気って点ではどうでしょう。

この間までやっていた『マチルダ』もイギリスの話なんです。僕が演じたトランチブル校長も非常に言葉遣いにたけていたんですよね。嫌みっぽくいやらしい言葉の扱い方は、フック船長と似たものがあるんではないのかなと思っています。ちょっとダークサイドな役というのも通じていますから、あの塩梅はエッセンスとして使えるんじゃないかなと。 ただね、似たものがあるから今、ちょっと間違えるとトランチブルと似た芝居になっちゃう。女性っぽくなっちゃうから気をつけなきゃって思いつつ、稽古しています。

左から演出・振付の長谷川寧、ピーター・パン役の山崎玲奈、小野田龍之介

「ああ、僕は一生、これを仕事にしよう」 8歳の小野田は思った

――どうしてミュージカル俳優になろうと思われたのですか?

うちは母がダンサーで、周りに芸事をやっている人も多くて、子どもの頃からディズニーが好きで……という環境からですね。ディズニー映画ってミュージカル要素が強いじゃないですか。

歌や演技のスクールとか劇団には入っていなかったんですけどダンスは習っていて、映画のモノマネや歌マネをすっごくしていました。そうしたらある時、良かったらスタジオに来ませんかって誘われて。行ってみると、ブロードウェーやいろんな大作で活躍されている方々がいるスタジオだったんです。 宝塚や劇団四季出身の方や、ディズニーで踊っている方、タレントさんとかいろんな方がそこにトレーニングに来ていて。そこでダンスをやっているうちに、ありがたいことにミュージカルに出ませんかと声がかかって。初めて舞台に上がったのが、元宝塚トップスターの平みちさん主演のミュージカルでした。ミュージカルに出たかったとかではなくて、出ちゃった。

――出ちゃったら、はまっちゃった?

出ちゃったら、ねえ(笑)。

その時、一言ぐらいしかない役だったんですよ。そんなにメインな役じゃないですし、時間的なこともあって幕が下りる頃に僕は舞台に立っていなかった。でもそれが悔しくてね。

幕の裏って「火の用心」って書いてあるんです。それを見たかったんですよ(笑)。それを俳優として見たくて、またミュージカルに出たいってね。それまでダンスでイベントとかショーに出ていたんですが、体だけじゃなくて声も使って表現するって、こんなに豊かで、感動が何百倍にもなるんだって思ったんです。

――当時10歳ぐらいですよね。子どもらしいエピソードかと思ったら、そんな崇高なことを感じたのですね。

8、9歳だったかな。で、もう1回出たいと思って出られて、幕が下りる時に舞台上にいるっていう願いもかなって……。

――「火の用心」を見られた。

うん、見られました。だけど次はね、幕が下りる時に感じる客席の空気。涙を流しながら観てくださったり、笑いながら観てくださったり、そういった客席とのキャッチボールみたいなものがたまらなくなっていてね。ああ、僕は一生、これを仕事にしようと思ったんです。

円熟味を増してシラノ・ド・ベルジュラックを演じたい 目指すは鹿賀丈史

――そうして俳優人生20周年を越えられました。

2020年に20周年を迎え、僕もやっと30歳を迎えました。 10代、20代といろんな作品で、いろんな役にトライさせていただいたんですが、若いからこそやれる役というのが結構ありました。それが30代になったら、大人の役者としての選択肢が増えるんじゃないかなと思っています。今回のフック船長もそうですね。

俳優って、とにかく1日でも多く舞台に立ち続けるとか、1つでも多くの作品、1つでも多くの役になってそこに生きることが非常に大切で、それが俳優として成長できる唯一の方法だと思っているんです。なので、ここからさらに40代に向けてどんな大人になっていけるかっていうのを、30代になったからこそできる大人の役で、大人の男として成熟していきたいです。

――大人の男・小野田龍之介が目指す将来はどのようなイメージなのでしょうか。

『シラノ・ド・ベルジュラック(※)』って戯曲があるじゃないですか。僕はあの「シラノ」という役を、おじさんになっていかに味があるように演じられるかっていうのが、将来の目標なんです。 ※17世紀のフランスに実在した人物、詩人にして剣豪。戯曲『シラノ・ド・ベルジュラック』は、シラノが容貌に悩みつつも1人の女性を恋い慕い崇高な愛をささげる姿を描く。

プライベートな小野田がこれからどれだけ人生の層を重ねられるか、俳優・小野田龍之介としてもいかに役と出会って、人間と出会って層を重ねていけるかで、その夢が実現できるかどうかが決まるのだと思うんです。

もちろん他にもやりたい役やトライした役っていうのはたくさんありますけれども、詩を詠む男っていうのはちょっと、味があるじゃないですか。日本ではシラノのミュージカル版を鹿賀丈史さんや市村正親さんが演じられましたよね。非常に素晴らしくて、僕の目標なんです。

一方で韓国では今、すごくロックなシラノが上演されていたりするんです。だから僕も若いうちにあのロックテイストなシラノを一度はやりたい。そこから円熟味を増して、鹿賀さんのような、ミュージカルなんだけれども語っているようにやるシラノになるって、素晴らしいじゃないですか。

鹿賀丈史さんや市村正親さん、吉田鋼太郎さんなど、僕の大好きな先輩方も皆さんシラノを演じていらっしゃいますから、やっぱり憧れますね。

【公演情報】
ブロードウェーミュージカル『ピーター・パン』
●東京公演● 2023年7月25日(火)~8月2日(水) 会場:東京国際フォーラム ホールC
●名古屋公演● 2023年8月5日(土)~6日(日) 会場:御園座
●大阪公演● 2023年8月12日(土) 会場:梅田芸術劇場メインホール
●埼玉公演● 2023年8月16日(水) 会場:ウェスタ川越 大ホール
●長野公演(上田)● 2023年8月19日(土)・20日(日) 会場:サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター)大ホール
●新潟公演● 2023年8月26日(土)・27日(日) 会場:りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場
●高松公演● 2023年9月2日(土)・3日(日) 会場:レクザムホール(香川県県民ホール)大ホール

出演:山﨑玲奈(ピーター・パン役)、小野田龍之介(フック船長役)、岡部 麟(ウェンディ役)、須藤理彩(ダーリング夫人役) ほか
原作:サー・J・M・バリによる作品を元にしたミュージカル
作詞:キャロリン・リー、作曲:モリス(ムース)・チャーラップ
翻訳・訳詞:福田響志
演出・振付:長谷川 寧

<ストーリー>
イギリス・ロンドンに住むウェンディ、ジョン、マイケルの子どもたちが、空を飛べる不思議な少年ピーター・パンと妖精ティンカーベルに出会い、いつまでも子どものままでいられる「ネバーランド」に旅立つ。森の住人たちと仲良くなったり、フック船長率いる海賊たちと戦ったりと冒険を経験する物語。子どもから大人へのはざまを壮大な音楽とダンスで描くミュージカル。

【小野田龍之介 Profile】
1991年7月12日生まれ。神奈川県出身。幼少よりダンスを始め、ダンスで舞台経験を踏みながら、その後多数のミュージカルに出演。特に最近は『マチルダ』のミス・トランチブル役、『ミス・サイゴン』のクリス役、『メリー・ポピンズ』のバート役と大役が続く。2011年、第1回シルヴェスター・リーヴァイ国際ミュージカル歌唱コンクール&コンサートでシルヴェスター・リーヴァイ特別賞を受賞。2020年にはミュージカルデビュー20周年記念コンサートを開催している。

写真提供:(C)ホリプロ

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