「ディズニープラス」のアジア統括GM、ジェイ・トリニダット氏独占インタビュー 「『ファミリー・エンターテイメント』だけじゃない!最高のストーリーがここにある」

2023.3.4 21:00

【シリーズ:キーマンに直撃! 2023年のSVOD各社はこう動く】

近年、動画配信サービス(SVOD)のサービス提供会社も続々登場。ユーザーにとってはうれしい一方、どれを選んでよいか分からないという声も。そこでentax編集班が、皆さんに代わってSOVD各社のキーマンに直撃インタビュー。各サービスの展望を聞いた。

ディズニープラス編 Part2
お話をうかがったキーマン:
ウォルト・ディズニー・カンパニー APAC ディズニープラス事業統括 ジェイ・トリニダッドさん

2019年にスタートしたディズニーの動画配信サービス「ディズニープラス」。日本では2020年開始とSVOD業界の中では後発だ。アジア地域を統括するゼネラルマネージャー、ジェイ・トリニダッド氏は、新ブランド「スター」で配信されるアジア太平洋地域(以下、APAC)発のオリジナル作品の重要性について、その真意を語った。

■2023年、新ブランド「スター」で準備してきたことが披露される

――日本で「ディズニープラス」が始まって2年半が経ちました。まずは現在の感想をお聞かせください。

まだ2年とは思えない。10年ほど経ったように感じます。
私自身、2020年8月に現職に就任しました。日本のディズニープラスとともに歩んでいる感覚です。

ウォルト・ディズニー・カンパニーは今年、100周年を迎えます。日本でもディズニーは60年以上の歴史がある。ディズニープラスが新規参入のビジネスだと認識されにくいと思いますが、先行する他社が5年、7年かけて到達した水準を短期間で成し遂げることは簡単ではありませんでした。

就任前、「世界で最高のストリーミングサービスを立ち上げる仕事だね」と、友人に言われました。まさにその通り。ディズニープラスはディズニーアニメーションだけでなく、ピクサーやマーベル、スター・ウォーズなど、世界の名だたる制作スタジオが生み出した人気の作品群を定額見放題で視聴できるサービスです。

さらに新ブランド「スター」として、20世紀スタジオの映画をはじめ、皆さんがイメージする“ディズニー映画”とは違った印象の作品も配信するようになりました。日本では2021年10月から「スター」のサービスを開始、特に今年2023年は、これまで準備してきたことの成果を皆さんに届ける年になりそうです。

というのは、APACではローカルのコンテンツを重視しており、これまでオリジナル作品の制作に努めてきました。昨年末から配信を開始しているヴィレッジ・サイコスリラー『ガンニバル』は日本から、超過激バイオレンス・スリラー『コネクト』は韓国から。各国のクリエイターがディズニーのクリエイティブと製作しています。

■日本での経験が、日本発世界への作品選びに生きる

――アジア地域における「スター」の立ち上げを指揮されたと聞きました。

私の経歴の中には、さまざまな技術やサービスの立ち上げがあります。Googleに在籍していた頃は初期のマップやYouTubeの立ち上げにも関わったことがあります。

すべての立ち上げ事業が成功するわけではないので、「スター」が無事ローンチできたことは、一生懸命努力したことの結果として誇りですし、ディズニー、ピクサー、マーベル、スター・ウォーズ、ナショナル ジオグラフィックなどのブランドがあったこともとても幸運でした。これからの成功のポイントは、作品の人気がでるか否か。ディズニープラスやスターを通じて、ディズニーの価値を高められるようがんばっています。

――成功のポイントとおっしゃった“人気がでる作品”の見極めはどうのようにされていますか。

約9年間、日本に住んだ経験が、見極めにも影響しています。例えば、日本についてのデータを読み解く際、日本の文化に触れていたからこその理解ができます。

分かりやすい例で言うと、クリエイターやクリエイティブ部門から作品の概要説明を受ける際、「これは半沢直樹っぽいです」と言われると、作品のニュアンスや、日本の消費者がどんなリアクションをするのかが感覚的に分かるわけです。私は『半沢直樹』をフルシーズン見ていましたからね。

『ガンニバル』ディズニープラス「スター」で独占配信中 © 2023 Disney

■アジア発のオリジナル作品は、ディズニーだからこそ実現できる最高のストーリーばかり

――他のSVOD会社でもオリジナル作品に力を入れているようですが、ディズニーだからこその特徴はありますか?

ディズニープラスの中で、私が個人的に好きな作品があります。『スター・ウォーズ:ビジョンズ』といって、スター・ウォーズの世界観をベースにつくられた短編アニメのアンソロジーシリーズです。

名だたる日本の著名なアニメーション制作会社が、ディズニーとコンビを組んで独自の視点で1話ごとにつくりました。全9作品が2021年に配信されましたが、スター・ウォーズファンという観点からも見ても、アニメーションという観点から見ても個性的で非常に素晴らしい作品ばかりです。

『スター・ウォーズ:ビジョンズ』は、ルーカスフィルムが「スター・ウォーズ」の創造のルーツとなった日本と新たにプロジェクトを始めたのがきっかけで、ディズニーだからこそ実現できた作品です。

こういった動きに続き、ディズニーは蓄えてきた経験や知識を、APACのクリエイターたちの才能と共有するため、昨年、「クリエイティブ・エクスペリエンス」というプログラムを始めました。ディズニーのクリエイターやストーリーテラーなどと交流できるプログラムです。

私たちは作品づくりにおいてストーリーテリングの品質を最も重視しています。100周年を迎えたことが、その評価の証だと感じます。また、APACの多くのクリエイターたちがディズニー映画や番組を見て育った経験を持っています。彼らが、自分たちが見てきた作品のクリエイターたちと一緒に何かができるというのは刺激的なことでしょう。これもディズニーだからこそ提供できる環境だと誇りに思っています。

それにディズニーは多くの制作スタジオを所有しています。世界的に突出した技術や表現が可能なこの環境は、他社でコンテンツをつくる際には触れることのできない、最高の機会だとも思っています。

「スター」では、これらの経験や知識、環境、ともにつくる体制を背景に、「APAC発の独自の作品づくりを行うのですから、視聴者の皆さんには、今後お届けする作品に大いに期待していただきたいです。

スター・ウォーズ:ビジョンズ
© 2023 & TM Lucasfilm Ltd.
ディズニープラスで独占配信中

■「ファミリー・エンターテイメント」だけじゃない! あなただけの物語を届けるために

――ディズニープラスの展望をお聞かせください。

日本でのディズニーブランドの影響力は、他国とは異なっていると感じます。「“ディズニー”というと何を思い浮かべますか」という調査をすると、日本では「東京ディズニーランド」や「ミッキーマウス」と連想される方が多いのです。

これは、ディズニープラスにとっては大きな課題でありチャンスだと感じています。ディズニーは、「ファミリー・エンターテイメント」の枠を超えて、もっと大きなブランドだと伝えていかなければなりません。

ディズニー、ピクサーやマーベル、スター・ウォーズ、また、素晴らしいドラマ作品を生み出している20世紀スタジオの作品も見放題なのです。つまりミッキーマウスもいれば、アベンジャーズもニモもR2-D2も、アバターもいるのです。

そして『ガンニバル』のようなAPAC発で、人々が「ディズニー」と聞いてまず思い浮かべるものからは想像もできないような作品が、「スター」には、今後ますます増えていきます。昨年講談社とのパートナーシップを拡大させた、アニメ「東京リベンジャーズ」聖夜決戦編をはじめアニメ作品も増えますし、韓国のエンターテインメント企業、HYBEとの提携でBTSのドキュメンタリーも配信予定です。

『BTS PERMISSION TO DANCE ON STAGE-LA』
© 2023 Disney and its related entities

これらは“ディズニー=「ファミリー・エンターテイメント」”とイメージしていた日本の視聴者にとって、新しい感覚かもしれませんし、浸透するには2、3年かかるかもしれません。それでも続けるのは、日本の視聴者にとってほんとうに素晴らしい、最高のストーリーテリングを届けたいからです。

量にこだわっているわけではあません。多くの方が東京ディズニーランドやミッキーマウスやディズニーアニメーションと関りがあり、それぞれに物語があって心に触れた何かを感じたという経験があるように、ディズニープラスでも、あなただけのディズニーモーメント、最高の物語を見つけられる場をつくりたいのです。

【ジェイ・トリニダッド Profile】

Googleでキャリアをスタート、APACの消費者向けマーケティングの統括を務める。日本マクドナルドやディスカバリー・ネットワーク ノース・アジアなどでキャリアを重ね、エンドツーエンド顧客戦略で豊富な経験を持つ。Fair.comのプレジデント&チーフプロダクトオフィサーを経て、2020年本職就任。現在、APACにおけるディズニープラスのビジネス統括を行う。スタンフォード大学で政治学の学士号取得。

写真提供:© 2023 Disney
© 2023 Disney and its related entities

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