『ガンニバル』などのオリジナル作品が続々誕生 BTSのドキュメンタリーも控える「ディズニープラス」のローカル戦略が熱い

2023.3.3 21:00

【シリーズ:キーマンに直撃! 2023年のSVOD各社はこう動く】

近年、動画配信サービス(SVOD)のサービス提供会社も続々登場。ユーザーにとってはうれしい一方、どれを選んでよいか分からないという声も。そこでentax編集班が、皆さんに代わってSOVD各社のキーマンに直撃インタビュー。各サービスの展望を聞いた。

ディズニープラス編 Part1
お話をうかがったキーマン:
ウォルト・ディズニー・カンパニー APAC ディズニープラス事業統括 ジェイ・トリニダッドさん

新ブランド「スター」が加わり、オリジナル作品がぐっと増えた「ディズニープラス」。ディズニー100周年の今年、かなり上質なストーリーを見せてくれそうだ。アジア地域のディズニープラスのビジネスを統括するジェイ・トリニダッド ゼネラルマネージャーが教えてくれた。

■優れた役者が命を吹き込んだ『ガンニバル』。世界にもプッシュ

2023年のディズニーは、50以上の劇場公開作品や動画配信コンテンツを生み出すと発表しているが、そのほとんどを定額見放題で視聴できるのが「ディズニープラス」。ディズニー、ピクサー、マーベル、スター・ウォーズ、ナショナル ジオグラフィックに加えて、新コンテンテツブランド「スター」のもとで、20世紀スタジオの映画や人気のドラマなどの作品、さらにはアジア太平洋地域(以下、APAC)発のオリジナル作品の制作や独占配信タイトルの拡大をうたっているのが特徴だ。

すでに、昨年末から配信されている日本発のオリジナルドラマ『ガンニバル』が、その衝撃的な表現力で話題を呼んでいる。人気コミックの実写版で、閉ざされた村社会で起こるサイコスリラーだ。脚本を大江崇允が担当、柳楽優弥を主演に、鬼才・片山慎三監督が、実写は難しいのではないかとされたシーンを豊かな映像美と迫力で描いている。

「『ガンニバル』は非常に魅力的な作品です。日本の視聴者の皆さんが魅力的に感じるようにつくられた作品ではありますが、そのつくり方はグローバルな基準にこだわっています。VFXや撮影、演出など私たちの持つノウハウやスキルを提供しています」と、トリニダッド氏は語る。

「オリジナル作品をつくる上で私たちが最も重視しているのは、ストーリーの質です。ディズニーに提案されるものは、完成した作品だったり、原案や脚本だったりとさまざまな段階にありますが、このストーリーは日本にとって最高の物語なのかといった点で選定を始めます。

その中でも『ガンニバル』は柳楽優弥さんはじめ、吉岡里帆さんなど優れた役者の皆さんが素晴らしい仕事をして、作品に命を吹き込んでくださった。国外でどれだけの反響を得ることができるかは、まだ数カ月の時間を要すると思うのですが、われわれとしても全チャンネルを通じてプッシュしている作品です」

『ガンニバル』ディズニープラス「スター」で独占配信中 © 2023 Disney

■世界的なクリエイターとAPACの才能を組み合わせる。『コネクト』など韓国作品も続々

トリニダッド氏は、9年間の日本居住経験がある。その中で得た日本への理解から、日本の映像市場について独自の見解を持っている。「日本の映像市場は国内にフォーカスしていると感じます。脚本から番組配給、配信まで日本に目線が向いている傾向にある。例えば韓国の場合、脚本家は最初から国外に売り込むことを念頭に作業を進めます。つまり、他の国で通用するかどうかを最初から考えているんです」

その傾向を日本の市場規模の大きさゆえと分析する一方で、日本の優れたクリエイターや、彼らが生み出したローカルのコンテンツをさらに世界と繋いでいくのが、ディズニーならではの力だと言う。その一つが新たに設けられたプログラム「クリエイティブ・エクスペリエンス」だ。ディズニーの主要ブランドやスタジオの幹部やストーリーテラーと、APACのクリエイターをつなぐ。

「ディズニーは長年培ったストーリーテリングの知見を豊富に持っています。その経験や知識と、APACの素晴らしい才能を持つクリエイターやストーリーテラーたちの経験を組み合わせたいと考えています。アベンジャーズや『アナと雪の女王』などを手掛けた世界的なクリエイターと交流することで、新たなクリエイティブの誕生を促しています」

そのようなクリエイターへの投資を行いつつ、APACから数多くの作品がリリースされている。2023年には、日本、韓国、インドネシア、オーストラリア/ニュージーランドからの新作が次々と登場する。すでに韓国からは、三池崇史監督と人気俳優チョン・へインで贈るバイオレンス・スリラー『コネクト』が、また、『オールド・ボーイ』のチェ・ミンシクなど豪華キャストが人生を賭けて勝負に挑む『カジノ』が配信され韓国ドラマファンの注目を集めている。

トリニダッド氏が「自分の学生の頃を思い出す」という、お気に入りの恋愛ドラマ『サウンドトラック#1』の続編、『サウンドトラック#2』も配信が予定されている。

日本発のオリジナル作品からは、実写とアニメで描かれるアドベンチャーファンタジー『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』、田中泯と新田真剣佑が親子役で共演する社会派ドラマ『House of the Owl(原題)』などが次々と配信される。

『コネクト』 © 2023 Disney and its related entities

■量にこだわっているわけではない。誰もが特別な気持ちになれる作品を届けたい

アニメへの注目も熱い。「アニメというジャンルがこれだけ大きく、非常に成功しているのは日本独自のものです。歴史も深く、テレビ放送などでも大衆性が高い。例えば、私たちは昨年講談社とのパートナーシップを拡大させ、講談社の漫画原作アニメ作品を世界で配信しています」とトリニダッド氏。現在、アニメ「東京リベンジャーズ」聖夜決戦編の見放題独占配信が始まっている。

さらに、手塚治虫の『火の鳥』をSTUDIO4℃がアニメ化する『PHOENIX: EDEN17』、バンダイナムコグループによる新規大型SFプロジェクトの一環として発表されたアニメ『SYNDUALITY』など、個性的な作品の配信が発表されている。

また、韓国のエンターテイメント企業、HYBEとの提携で、BTSをフィーチャーした映像の配信も始まった。2021年に米国ロサンゼルスで行われたライブを収録した『BTS: PERMISSION TO DANCE ON STAGE – LA』、BTS のVが『梨泰院クラス』のパク・ソジュンらとサプライズ旅行を敢行したトラベルリアリティーショー『IN THE SOOP フレンドケーション』だ。

そして、BTS メンバーの日常やそれぞれの想い、今後のビジョンを追いかけるドキュメンタリー『BTS MONUMENTS: BEYOND THE STAR(原題)』の独占配信が予定され、BTSファンの期待が高まっている。

『BTS PERMISSION TO DANCE ON STAGE-LA』
© 2023 Disney and its related entities

「私たちは量にこだわっているわけではないんです」
視聴作品数を爆発的に増やしているディズニープラスだが、トリニダット氏は意外なことを口にした。

「どれだけの作品数を誇るかということではなく、質を重視しています。ディズニーの作品や番組は、観た後、何か特別な感覚を思い起こさせる力があります。小学校の女の子でも、大企業に勤めるビジネスマンでも、子育てをしている専業主婦の方でも、誰でも特別な気持ちになることができる作品をディズニープラスを通して届けることが、私のゴールです」

「ディズニープラスアジア地域の責任者として、これから5年、10年先を見据えて、皆さんが作品を観て、笑ったり泣いたり、ちょっとドキドキしたり、ワクワクするような思いを持っていただけるような作品を手掛け、紹介していきたい。世界の最高の物語はもちろん、日本などAPAC地域から生まれる最高の物語をお楽しみいただけることになると思います」とトリニダッド氏は、最後に力強く語った。

【ジェイ・トリニダッド Profile】
Googleでキャリアをスタート、APACの消費者向けマーケティングの統括を務める。日本マクドナルドやディスカバリー・ネットワーク ノース・アジアなどでキャリアを重ね、エンドツーエンド顧客戦略で豊富な経験を持つ。Fair.comのプレジデント&チーフプロダクトオフィサーを経て、2020年本職就任。現在、APACにおけるディズニープラスのビジネス統括を行う。スタンフォード大学で政治学の学士号取得。

写真提供:© 2023 Disney
© 2023 Disney and its related entities

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