シンガーソングライター由薫に単独インタビュー ドラマ『星降る夜に』主題歌「星月夜」は「自然に表現できる、自分自身に近い曲」
2023.2.21 21:54吉高由里子×北村匠海が織りなすラブストーリー『星降る夜に』(テレビ朝日系)。このドラマの主題歌『星月夜』を担当しているのが、22歳のシンガーソングライター由薫である。幼少期をアメリカ、スイスで過ごした彼女は、邦楽・洋楽問わずさまざまな音楽に触れて成長。ギターを手にしたことで、作曲に没頭したという。そんな彼女をメジャーデビューシングル『lullaby』、配信シングル『No Stars』でプロデュースしたToru(ONE OK ROCK)と今回もタッグを組み、切なく温かいラブソングが完成した。今回は『星月夜』の制作を通じて、由薫自身がどのように変化していったのかについて語ってもらった。
■ドラマ『星降る夜に』の登場人物の名前の美しさにひかれて
――由薫さんがドラマ『星降る夜に』の主題歌を作るうえで、まず大切にしたことを教えていただけますか?
最初に企画書を読ませていただいたんですけれど、いろいろな人がいるという前提で、それぞれが当たり前に生きていることをちゃんとドラマにしたい、といったことが書かれていて。それを読んで本当に素敵だなと思ったんです。最初の方の台本も読ませていただき、登場人物の会話を想像しながら、インスピレーションを受けて歌詞を書いていきました。
――歌詞の中では「あなたの名前」「私の名前」といったように「名前」がキーになっていますが、「名前」に注目したのはなぜでしょうか?
登場人物の名前が雪宮鈴、柊一星といったように、非常に美しくて。名前にこだわりを感じたんです。私自身も親戚に子どもが生まれたり、名前について考えることが多かった時期で。<あなたの名前を祈るようにそっと 何度も 抱きしめているよ>という歌詞は、最初の方に思いつきました。それを軸にしながら曲作りをしていったんです。
――名前は名付ける人の思いが乗りますよね。
そうですね。私も名前がつけられたエピソードを聞いたりするのが好きです。一気にその人との距離が近くなるというか。名前ってみんな持っているものだけれど、名前自体もつけられた経緯も1人1人違うし、その人の始まりでもある。そういう意味でも、名前の深さをうまく歌詞にしたいな、と思って書きました。
――由薫さんは名前をつけた経験はありますか?
名前はよくつけます。ギターにはSunnyという名前をつけていますし、植物にも名前をつける時もあるし。あとは昔、飼っていたカメの名前を「メカ」と名付けました(笑)。
――「メカ」!結構、ストレートな付け方ですね(笑)。
はい(笑)。最初は適当な付け方でしたけれど、今となっては「メカ」と聞いただけですごく懐かしさがこみ上げてくれるというか。「あんな顔だったな」みたいな、「マグロが好きだったな」と思い出したりします。
――ちなみに、なぜギターはSunnyという名前にされたのですか?
初めて人生で作った曲が、雨女ならぬ、雨少女についての曲だったんです。あとそのギターは基本、黄色しかないんですけれど、日本で2本だけ茶色のものがあり、その1つを持っていて。ライトが反射すると、太陽みたいなんですよね。
――なるほど。そして今回リリースされた『星月夜』の作曲・編曲は、プロデュースを担当しているToruさん(ONE OK ROCK)です。
私が英語で歌っているToruさんのデモ曲があって、ドラマに合うんじゃないか、となったんです。ただ、英語でつけた歌詞は、深く沈み込んでいくことを歌った曲で、切なさというか、影の部分が多くて。すごく奇麗でみんなも気に入っていて。その後私の声や楽曲を好んでくださっていたドラマのプロデューサーさんにそのデモを聴いてもらったらすごく気に入ってくださって。そして日本語の歌詞にすることはできますか?というオファーをいただき英語の歌詞を取っ払って1から作り直しました。
ドラマは先の展開が読めないのが面白いところじゃないですか。だから曲で決定づけたくないな、と思っていて。幸せだったり切ない状態だったり、いろいろな状態にフィットする曲になることを意識しながら歌詞をつけていったら、もともとあったデモとはまったく違う曲になりました。
――この『星月夜』は、由薫さんの歌い方も他の楽曲とだいぶ違う印象を持ちました。
『lullaby』(メジャーデビューシングルで、映画『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』の主題歌)などは力強さを意識して、かなり登場人物の気持ちや悲しみを歌に込めるように歌ったんですけれど、この『星月夜』は素の自分で歌ったというか。星空があって、それを見上げている自分がいて、というイメージで歌いました。すっと出てくるメロディなので、自分自身に近い曲かなと思います。
――『星月夜』のレコーディングはいかがでしたか?
Toruさんはレコーディングにも来てくださったんですけれど、いつもはより聴き心地がいいように、“もうちょっとこんな感じ”といった指示をもらったりするんです。でも今回は私が普段しゃべっている感じでいい、といった雰囲気だったので、他の曲と歌っている時の意識は違っていました。
デビューシングル『lullaby』で初めてToruさんとレコーディングしたんですけど、これは本当に悔しいレコーディングの1つでした。映画の中の感情は、すごく切なくて、本当に叫びといったようなものなんですけれど、そこにわずかに光があるという感じで。それをどう表現しようか悩んでしまったんですね。一生懸命歌って、Toruさんもそこに応えてくれるように、「こんな感じ」といろいろアドバイスしてくれて。
終わった時は「もっとうまくできたはずなのに」と思ったんですけれど、レコーディングした後に改めて聴くと、その必死さが映画と重なる部分があったんです。そこからレコーディングも数を重ねていって、自分の歌い方も冷静に考えるようになりました。これからも歌い方はどんどん変わっていったりするのかな、と自分では思っています。
■楽器に引き出されるような形で曲作りをしている
――普段、楽曲制作はどのように行ってるか、教えていただけますか?
曲作りの仕方も、どんどん変わってきています。もともとはギターを抱えてコード進行を決めて、そこにメロディと歌詞をつけて曲にしていくことが多かったんです。でも共作もさせていただく中で、自分なりに試行錯誤していて。最近はピアノでコードを入れて作ることも増えてきました。あとはドラムから始めてみるとか。まさか自分がこうなるとは思っていなかったのですが、シャワーを浴びている時にメロディが浮かんできて。急いで出て、ギターを抱えて書くこともたびたびありました(笑)。
あまりスタイルが決まっていないからこそ、いろいろなタイプの曲が作れる気がします。今はベースの音から作り始める方法も気になって、いろいろやっていけたらいいな、と思っているところです。
――楽器が違うと、どんなところに差異が出てくるのでしょう?
曖昧な表現になるんですけれど、ピアノの時は自ら踊る、フリースタイルみたいなイメージです。一方でギターは、ギターによって引き出される形でメロディが出てくることが多くて。最近の曲だと、『gold』(2022年12月に配信リリース)はギターやドラムが先行で、本当に楽器に導かれる感じでした。そういう違いも今は研究中なので、いろいろな方向から曲を作っていけたらいいな、と思っています。
――ベースで曲を作るのも、また面白そうですね。
実はコロナの時に安いベースを買っていて。家にあるんですけれど、なかなか触れる機会がないので、そろそろ練習していいかな、と思っているところです。コロナの時はベースがすごく耳に入ってきたんですよ。その時は電車が使えなかったので、片道40、50分ぐらい歩いてベースを買いに行ったんです。郵送を待てなくて、そのまま持って帰ってきました(笑)。
――すごい熱量ですね。由薫さんは、テイラー・スウィフトを始めとするシンガーソングライターに興味を持ったことが音楽の道に進むきっかけだそうですが、どんな点にひかれたのでしょうか?
自分で曲を作りたい思いがあったので、シンガーソングライターという形にすごく興味がありました。ギターを始めるきっかけの1つになったアーティストはテイラー・スウィフトですが、本当に何がきっかけか分からないぐらい、邦楽・洋楽問わずいろいろな音楽を聴いていて。自分がシンガーソングライターになった今でも、洋楽と邦楽の間みたいなところをさまよいながら、音楽を作っていけたらいいなと思っています。
――自分で曲を作りたいと思われたのは、なぜでしょう?
もともと何かを作るのがすごく好きだったんですけれど、中学生になってギターを手にした時に、曲を作りたいという欲求があったことに初めて気づいて。その時はYouTubeで弾き方を検索し、その曲のコードを見て弾けるようになるため、毎日学校から帰ったら夢中になって練習していました。それで何十曲も何百曲もやっているうちに、“曲ってこうしたら作れるんじゃないか?”といったことが分かってきたんです。私はもともとしゃべるのがあまり得意ではなかったんですけれど、言いたいことがうまく言えない気持ちを曲にして昇華させるようになってから、本当に曲を作ることが止まらなくなりました。でもその時の私と今の私は変わってきたな、と実感していて。
――どんなところが変わりましたか?
当時は内に入っていくような曲作りだったんですけど、19、20歳ぐらいになってライブを始めて。音楽を「人に届けるもの」として認識するようになってから、曲の作り方はまったく変わりました。今は曲というものは、コミュニケーションの1つだなと思い始めていて。曲でまったく知らない誰かとつながる瞬間があるのが、音楽じゃないですか。私も誰かにちゃんと届ける気持ちがあったうえで、音楽を作るようになってきたと思います。
■皆さんからの反応を得て、自分で書いた歌詞に納得できた
――ドラマ『星降る夜に』をご覧になっている方々からは、どんな反応が届いていますか?
私が曲を作る時に意識したのは、ドラマの登場人物1人1人にちゃんと重なる曲でありたいなと思っていて。それが合格したら、今度はドラマを見てる人たちが自分のそれまでの歩みだったり、その人自身とつなげることができる曲だったらいいな、と思っていたんです。
今までは自分が言いたいことを曲にすることが多かったんですけれど、みんなの思いをできるだけ想像して、思いにつながることができる歌詞になったらいいな、と考えて歌詞を書いて。そうしたら、登場人物と重ね合わせて聴いてくれる人もいれば、自分自身の経験と重ね合わせる反応もありました。自分がやりたいと思って歌詞を書いていたことが、実際に皆さんに届いていることが分かって、すごくうれしいです。
あと私はどんなふうに自分の曲が受け取られているのかに興味があって、積極的に探しに行ってるんです。そこで自分が好きな芸能人や推しといった存在に気持ちを重ねながら、私の楽曲を使っている人もいることを知って。皆さんが自分の人生や気持ちを表現する中で、私の楽曲を使ってくれているのがすごくうれしかったです。皆さんからの反応を得て、改めて自分で書いた歌詞が好きになったというか、納得できました。
――これからライブ活動が楽しみですが、まずは東名阪のツアー(東京・O-WEST 、大阪・南堀江knave、名古屋・SPADE BOX)が発表されましたね。
ライブは自分を成長させていただける場なので、ツアーが決まってうれしいです。今年は特にそういう機会が多そうなので、またその経験からいろいろ影響を受けて曲にしたりするんだろうな、と考えています。自分でもどんなことになるのか、すごく楽しみな1年ですね。
もともとステージに立つのは得意ではなくて、緊張で震えたり、ライブの後は反省して泣きながら帰ることが多かったんです。だから以前までライブは自分との戦いでした。でも最近は楽しみで仕方なくて。音楽でいろいろな人とつながっていけたらいいな、と思っています。
【由薫 Profile】
2000年沖縄生まれ。幼少期をアメリカ、スイスで過ごす。アコースティックギターを手にしたことをきっかけに、カバーユニットやバンドを始め、17歳頃にはオリジナル楽曲の制作を開始。2022年6月に新人として異例の映画「バスカヴィル家の犬シャーロック劇場版」の主題歌に大抜てきされ、その楽曲「lullaby」で6月15日にメジャーデビュー。