木村拓哉主演映画『レジェンド&バタフライ』プロデューサー単独インタビュー「大河ドラマ1年分を1本で感じる濃密な作品」
2023.2.16 12:00木村拓哉と綾瀬はるかによる織田信長と濃姫、2人の激動の人生と愛を描いた映画『レジェンド&バタフライ』は、東映創立70周年記念作品であり、監督が大友啓史、脚本は古沢良太、音楽を佐藤直紀、そして精鋭のスタッフが集まり、圧倒的なスケールで物語を展開させていった。東映株式会社プロデューサーの井元隆佑氏が、このプロジェクトに関わったプロフェッショナルたちの姿について語る。
■大友監督の姿勢、職人の技術、スタッフの熱意すべがかみ合った
――『レジェンド&バタフライ』という作品の壮大さは、スタッフの力が非常に大きいと感じました。
大友啓史監督には、“劇薬(起爆剤)”になってもらいたかったんです。残念ながら時代劇は今、世の中からあまり求められていないジャンルとされています。いわばトレンドの逆張りに挑戦しなければならない。それができるのは、『龍馬伝』でNHK大河ドラマを刷新し、『るろうに剣心』シリーズで、それまで時代劇に関心のなかった層も取り込んでいった大友監督しかいないと思って。東映京都撮影所の職人集団と大友組の常連のスタッフをまとめ上げて、次の令和の時代劇として『レジェンド&バタフライ』を撮っていただきたいとお願いしました。
大友監督はすごくエネルギッシュで、常に「これでは足りない」とご自分に言い聞かせる方です。すべてにおいてマックス以上のものを求められていて、物作りへの真摯な姿勢は私個人としても本当に勉強になりました。
――今回のスタッフだったからこそ撮影できたシーンは、どんなところだと思われますか?
たとえば城の変遷が挙げられます。那古野城、清洲城、小牧山城、岐阜城、安土城と、信長は人生で5回城を変えたとされています。この映画では、小牧山城以外の城が登場しているのですが、実際の城はほぼ現存していません。そこで今回はオープンセットを作っています。信長が岐阜城をバーッとかけ降りるシーンなど、そこで撮影していて。「これは一から作っているんですよ」と言っても、なかなか信用してもらえないような大スケールで表現しているので、そのあたりはぜひ注目していただきたいですね。
あとは熱意だと思います。実は南蛮船のシーンは、宮城県慶長使節船ミュージアム(宮城県石巻市)の施設内にあったサン・ファン・バウティスタ号の復元船で撮影されました。この船は津波等で老朽化していたそうで、もともと撮影がクランクインした頃には取り壊しされている予定だったんです。しかしラストのシーンにはどうしてもこの南蛮船をお借りしたい、と取り壊し時期を少し伸ばしてもらって、そのシーンを撮影することができました。
おそらく熱意がないと応じてくださらなかったと思うのですが、京都の製作部が懸命に交渉して、宮城県、石巻の方々も寛大なお心で許可してくださって。「バウティスタ号が映画として残るのであればぜひ」と言ってくださったおかげで成立したんです。
■最期の一言まで受け取って、作品のエネルギーを浴びてほしい
――さらに映画の冒頭からドラマティックな音楽が映画を彩っていて、圧倒されました。
今や映画がさまざまな環境で見ることができてしまうからこそ、映画館で見るべき映画にする、というのが、大友監督の志向でした。壮大さやスケール感を表す音楽と言えば、やはり大友監督と『龍馬伝』や『るろうに剣心』シリーズなど数々のタッグを組んできた佐藤直紀さんではないかとなって、すぐに佐藤さんにお願いしました。
劇伴の音楽撮りでは、チェリストが30人以上集まっています。なかなかこんなぜいたくなことはないのですが、完成した音楽もやはり非常に豪華。作品に対する厚み、深みが増しました。音楽が入った後は、物語の中の2人の心情がより際立っていて、まさに佐藤直紀さんの真骨頂を感じました。
編集に関しても、かなりこだわりました。普段は数日で終わる工程を、私たちは何倍も何十倍も時間を費やしていて。単純に日数をかければいいわけではないですが、何度も各部とディスカッションして丁寧に仕上げていきました。
――上映時間は168分(2時間48分)ですが、この時間についてはどのようなこだわりがありましたか?
最初は3時間40分ぐらいあったんです(苦笑)ただ古沢良太さんの脚本で大事なところをもう一度検討し、「やはりこれは2人の話だから」となって、その3時間40分超えの映像をできるだけ研磨していき、今の尺になりました。海外映画でも、最近は長い作品がトレンドになっていますし。もちろん邦画として長さがあるというのは挑戦でもあるのですが、何よりも作品の品質を保つためには、このぐらいの時間は必要だったんです。ご覧になった方々からも「この映画1本で、大河ドラマ1年分を感じられるぐらい濃密だった」という感想を多くいただきました。
――最後に観客の皆さんやこれからご覧になる方々に、『レジェンド&バタフライ』についてのメッセージをお願いします。
この映画には信長と濃姫の人生が詰まっています。本当に最期の一言まで見逃さずに受け取って、作品を浴びていただきたいです。これまで申し上げた通り、『レジェンド&バタフライ』は時代劇と思って構えて見なくても非常に楽しめる映画です。本当に気軽な気持ちで劇場まで足を運んでいただければ、おそらく見終わった頃にはまた違う感情が生まれるのではないかと信じています。
【井元隆佑 Profile】
東映株式会社プロデューサー。木村拓哉主演『宮本武蔵』でプロデューサー補。その後はプロデューサーとして『刑事7人』シリーズ、『三屋清左衛門残日録』(18~)シリーズ、『闇の歯車』(19)など、東映京都撮影所作品も多い。『刑事7人』では脚本も務めた。
『レジェンド&バタフライ』 全国公開中
出演:
木村拓哉、綾瀬はるか
宮沢氷魚、市川染五郎、音尾琢真、斎藤 工、北大路欣也、伊藤英明、中谷美紀
監督:大友啓史
脚本:古沢良太 音楽:佐藤直紀
配給:東映
【STORY】
尾張の織田信長は、格好ばかりで「大うつけ」と呼ばれていた。この男の元に嫁いできたのは、「マムシの娘」と呼ばれる男勝りの美濃の濃姫だった。
権威を振りかざし尊大な態度で濃姫を迎える信長と、臆さぬ物言いで信長に対抗する濃姫。
敵対する隣国同士の政略結婚という最悪の出会いを果たした2人は、性格も真逆で、お互いを出し抜いて寝首をかこうと一触即発状態、まるで水と油のような関係だった。
そんなある時、強敵・今川義元の大軍が攻めて来る。圧倒的戦力差を前に絶望しかけた信長であったが、彼を奮い立たせたのは、濃姫の言葉であった。
2人はともに戦術を練り、激論の末に奇跡的勝利を収める。真っ向から対立していた2人はこの日から次第に強い絆で結ばれ、やがて誰も成し遂げたことのない天下統一へと向かっていくのであった──。