【単独インタビュー】演出の錦織一清、役者にダメ出しはしない「ダメなところがあったら、自分の○○○がダメ」
2023.2.15 18:00舞台演出家で俳優の錦織一清に、entax取材班が単独インタビューを実施。演出家、俳優、歌手と、さまざまな角度からステージを見つめてきた錦織に、最新演出舞台『垣根の魔女』(大阪松竹座、4月21日~30日)の見どころのほか、コロナ禍における舞台製作の苦労などを聞いた。錦織の口から飛び出した数々の貴重な言葉を、2回にわたってお届けする。
――作・演出・出演の3役を担当した舞台『サラリーマンナイトフィーバー』が千秋楽を迎えたばかりです。大阪公演に続き、東京公演でも久々に俳優としてステージに立った感想を教えてください。
やっぱり楽しいですよね。僕はワンシーンだけど、長めのシークエンスのところにちょっと居座る形で入れさせていただいたんですけど、今、舞台上に立っている時間、このセリフを言っている時間が“ずっと終わらないでいてくれないかな”って感じですよね。
――東京・三越劇場のステージはいかがでしたか?
僕は10年ぐらい前なのかな、(音楽劇)『恋人たちの神話』(2012年)の時に荒木とよひさ先生と作詞のタッグを組ませていただきまして、1本芝居を作らせていただいたのが三越劇場さんで。その時は出演じゃなかったんですが、今回は使わせていただいて、まして板を踏んだっていうのも初めてで。三越劇場に立ってみたら、セリフの届き具合とかが“ちょうどいい劇場だな”というのが分かりましたよね。三越劇場さんに出させていただいて、“改めていいなぁ”とほれちゃいましたよ。
――『垣根の魔女』は大阪の下町が舞台で、久本雅美さん、室龍太さん、大和悠河、渋谷天笑さん、ラサール石井さんと関西にゆかりのあるキャストが顔をそろえます。出演者に期待するのは、どんなことですか?
本来、持っている個性であったりとか、十八番をやっていただくことは大賛成で、“この役なんで、普段の感じを拭いさってお芝居をやってください”というような注文方法を取る方もいらっしゃるとは思うんですけど、僕は逆なんですね。僕は個性を尊重するタイプで、それを取っちゃいけないと思っている演出家なんですよ。
――作品は、主人公のミドリ婆さんが近所の人たちの悩みに首をつっこみ、次々と解決していく人情コメディーです。昔はミドリ婆さんのような、いい意味でおせっかいな人が近所に必ずいましたよね?
僕らが子供の時にね、夏休みで公園にラジオ体操をしに行くんですよ。ただ、(参加した印として)ハンコを押してもらいたいだけ、ハンコをコンプリートしたいだけなんですよ。体操なんかしませんよ。体操が始まっても、公園ですべり台とかブランコで遊んだりしていると、“お前ら、体操をしないんだったら帰れ”って言うようなお父さんがいたから。僕たちは、その人たちに育てられましたよ。
――ミドリ婆さんは「笑顔が1番、元気が1番」というのがモットーです。主演の久本さんとも似ていますが、錦織さんとも共通点があるのではないですか?
似ていると言うと、僕も生意気にちょっと正義感がある人間なんですよね。インチキが嫌いなところがあって、意外と物を申したいタイプであることは確かなので。何か(ミドリ婆さんと)共通で思うことがあるから、僕もこの作品が好きなんですよね。
――演出家として、若い俳優さんが悩んでいたらミドリ婆さんのように積極的に首をつっこんで話を聞きますか?
いや、僕は(相談に)来てくれるまで待ちますよね。僕はダメ出しも基本的にする物じゃないと思っているので。だから、稽古場でも何かダメなところがあったら、“自分の作り方がダメなんじゃないか”と思って。
――12日の製作発表で、錦織さんの演出スタイルについて、久本さんが「演出家って普通、テーブルに座っていろいろと見るじゃないですか。錦織さんは座らないですね、ずっと歩いています」と話していましたが、歩き回る理由は何でしょうか?
僕は自分も(演技を)やる立場にいるから、“クリアランス(=間隔)が取れるかな?”とか距離感とか、“セットに当たらないかな?”“もうちょっと(役者の位置を)下げると、踊っていて手を振ったら(セットに)パチンって当たるな”っていうのは自分でも経験があるから分かるわけです。安全性を見たいし、役者のいい目線を使いたいから、僕と目が合ったら芝居しにくいでしょって。(客席の)センターだけはあけておきたい。角道をあけるじゃないけど、気が抜ける道を作っておいた方がいい。壁の向こうをすっと見るような目を(役者に)させてあげたいので。やっぱり遠くを見ている目の方がいいんでね、人間の目って。
【舞台『垣根の魔女』】
今年、開場100周年を迎えた大阪松竹座の公演。漫画家・村野守美の同名コミックが原作で、世話焼きで知恵に長けた主人公のミドリ婆さん(久本雅美)が近所の人たちの悩みに首をつっこみ、次々と解決していく人情コメディー。
【錦織一清Profile】
1965年生まれ 東京都出身。小学生の時、ジャニーズ事務所に入所し、アイドルグループ『少年隊』のリーダーとして人気を博したほか、テレビドラマや舞台など俳優としても活躍。1999年に出演したつかこうへい演出舞台『蒲田行進曲』への出演をきっかけに舞台演出にも積極的に関わるようになる。2020年12月31日に、43年間在籍したジャニーズ事務所から独立。最近でも舞台『毒薬と老嬢』で演出を務め、『サラリーマンナイトフィーバー』で作・演出・出演の3役をこなすなど精力的に活動し、今年も最新演出舞台『垣根の魔女』が4月21日から開幕する。