「木村拓哉さんの熱い思いを形に」映画『レジェンド&バタフライ』プロデューサー単独インタビュー
2023.2.14 12:00木村拓哉と綾瀬はるかによる織田信長と濃姫、2人の激動の人生と愛を描いた映画『レジェンド&バタフライ』。監督:大友啓史、脚本:古沢良太をはじめとして日本最高峰のスタッフが集結した今作品は、木村拓哉の信長に対する思いから始まったという。その思いを受け取り、実現へと導いた東映株式会社 プロデューサーの井元隆佑氏に、『レジェンド&バタフライ』が生まれるまでの過程と、物語の芯について語ってもらった。
■「信長として帰ってきたい」その言葉を実現したかった
――井元さんはプロデューサーとして、どのように『レジェンド&バタフライ』という作品に関わられたのでしょうか?
まず木村拓哉さんがドラマスペシャル『宮本武蔵』(2014年)に出演された際、私は入社2年目でアシスタントプロデューサーという立場で関わっていました。東映京都撮影所で長期におよぶ撮影でご一緒させていただき、撮影終了時に木村さんが「次は信長として、またここに帰ってきたい」と、おっしゃったんです。
その後も木村さんは、さまざまなインタビューや思い出飯といった話題で撮影所の肉そばの話をしてくださって。ずっと京都撮影所に対してメッセージを感じていました。私としては木村さんが信長の亡くなったとされる年齢の時に、なんとか木村さんの信長という企画を成立させられないか、と千載一遇のチャンスをずっと狙っていました。
――映画『レジェンド&バタフライ』は、織田信長のみにフォーカスを当てるのではなく、その伴侶である濃姫との2人の物語となっています。なぜこういった作品を制作することになったのでしょうか?
もともと私と須藤泰司プロデューサー、そして脚本の古沢良太さんの3人で話している時、「最悪のボーイミーツガールというのは、政略結婚じゃないか?」という古沢さんのアイディアがあって。一方で私は木村さんで信長公をやりたい、という思いがあったので、「それを信長と濃姫で描いてみませんか?」と相談したんです。
最終的に『レジェンド&バタフライ』は構想から作品が出来上がるまでに、約4年かかっています。
■歴史の知識は必要ない、純粋な殿と姫のラブストーリー
――国宝や重要文化財に指定されている本物の空間を使っていたり、絢爛豪華な城をよみがえらせたオープンセットなど、日本最高峰のスケールで撮影された映画である一方、映画の一番の肝は夫婦のラブストーリーなのですね。
そうです。実は劇中で信長と濃姫という固有名詞は、使っていません。周りは「殿」や「姫」、お互いのことは「お主」や「お前さん」といった呼び方です。これは古沢さんの発明で、たとえ信長の史実に詳しくなくても、殿と姫のラブストーリーでお話を見ていくことができる。時代劇に少し抵抗感のある方も、歴史が嫌いだった方も、ある夫婦の話として見ていってもらえたら、と思います。
たとえば韓国ドラマの時代ものでも、ラブストーリーがメインであれば、韓国の歴史を知らなくても、ストーリーを楽しむことができますよね。それに近い形ではないでしょうか。
――信長も濃姫も破天荒な2人ですが、お互いに心を通わせ合うという点では、途端にぎこちなくなくなっていくのが、かえって魅力的に映ります。
恋心を相手に伝えることに関しては、2人は不器用だったのだと思います。相手の言っていることや望んでいることを形にしてあげるという描写は劇中で散りばめられているんですけれど、ただ好きだということだけは本人に伝えない。それが2人の可愛さであり、本当に愛らしいところかな、と感じました。
心が近くなったり離れたりしながら、なかなか言葉に表せない。我々としてはそれがこの映画の面白みだと思うので。最期のセリフまでしっかりとご覧いただけたら、うれしいです。
――信長の人生における歴史的な出来事の描き方も、『レジェンド&バタフライ』だとこれまで信長を扱ってきた映像作品と、だいぶ違いますね。
有名な合戦をあえて飛ばすというのが、今回の新しい試みの一つでした。桶狭間の戦いも前夜の信長と濃姫を描いていて、それを経ると2人の関係も信長の立ち位置も変わっていく。戦に勝ったり負けたり、また試練や悲劇が襲って、といったように、史実と2人のうねりが噛み合わさっていくのが、今回の見どころです。
――なるほど。『レジェンド&バタフライ』というタイトルも、一見、時代劇とは予想がつかないですよね。その辺も狙いだったのでしょうか?
そうですね。これまでの時代劇の枠を越えた映画であると伝えたかったので。時代劇調ではないタイトルが、ずっと候補としてありました。
■現代感覚を見事に取り入れた、古沢流キャラクター
――魔王のような震え上がるカリスマ性だけでなく、弱さ、未熟さ、優しさ、孤独といった面も含んだ、人間らしい信長像はどのように形作られていったのでしょうか?
古沢さんとの脚本づくりは、「信長は本能寺で本当に亡くなったのかな?」とか「光秀はこう考えていたんじゃないか?」「資料の少ない濃姫はどんな人物?」と2年くらいカフェで雑談を交えながら練っていきました。
その時に「信長は世間的には冷徹で怖いイメージだけれど、本当にそうだったのかな?」という思いがあったんですよね。だから人間信長といったようなところが面白いのではないか、ということになって。最期の信長の言葉にすべてがつながればいいな、と考えていました。
初めて初稿を読み終えたとき、自然と涙があふれたのを覚えています。こんな経験は初めてでした。
――そして信長と最悪の出会い方をした濃姫については、どのように作り上げていったのでしょうか?
濃姫は資料があまりないので、そこがエンターテインメントとして、お話を作ることができた、と古沢さんはおっしゃっていました。どうしても昔の時代劇に出てくる女性像は一歩下がって、というか、つつましくいるイメージがあるんですけれど、この濃姫は現代の感覚に近くて、フラットに語り合える。この感覚を濃姫に宿らせたのは、やはり古沢さんの脚本の素晴らしさだと思います。
【井元隆佑 Profile】
東映株式会社 プロデューサー。木村拓哉主演『宮本武蔵』でプロデューサー補。その後はプロデューサーとして『刑事7人』シリーズ、『三屋清左衛門残日録』(18~)シリーズ、『闇の歯車』(19)など、東映京都撮影所作品も多い。『刑事7人』では脚本も務めた。
『レジェンド&バタフライ』 全国公開中
出演:
木村拓哉、綾瀬はるか
宮沢氷魚、市川染五郎、音尾琢真、斎藤 工、北大路欣也、伊藤英明、中谷美紀
監督:大友啓史
脚本:古沢良太 音楽:佐藤直紀
配給:東映
【STORY】
尾張の織田信長は、格好ばかりで「大うつけ」と呼ばれていた。この男の元に嫁いできたのは、「マムシの娘」と呼ばれる男勝りの美濃の濃姫だった。
権威を振りかざし尊大な態度で濃姫を迎える信長と、臆さぬ物言いで信長に対抗する濃姫。
敵対する隣国同士の政略結婚という最悪の出会いを果たした二人は、性格も真逆で、お互いを出し抜いて寝首をかこうと一触即発状態、まるで水と油のような関係だった。
そんなある時、強敵・今川義元の大軍が攻めて来る。圧倒的戦力差を前に絶望しかけた信長であったが、彼を奮い立たせたのは、濃姫の言葉であった。
二人はともに戦術を練り、激論の末に奇跡的勝利を収める。真っ向から対立していた二人はこの日から次第に強い絆で結ばれ、やがて誰も成し遂げたことのない天下統一へと向かっていくのであった──。