映画『あつい胸さわぎ』に等身大の自分で挑戦! 主演の吉田美月喜が感じ続けた“あったかさ”とは
2023.1.26 07:302023年1月27日公開の映画『あつい胸さわぎ』は、上海国際映画祭アジア新人賞を受賞した、まつむらしんご監督が、演劇ユニットiaku・横山拓也の話題の戯曲を映画化した作品だ。“若年性乳がん”と“恋愛”をテーマに母と娘、彼女らをとりまく人々の心の機微を軽妙な会話で温かく描く。entax取材班は、18歳で乳がんを宣告される主人公・武藤千夏を演じた吉田美月喜に作品の見どころを聞いた。
■重くなりそうなテーマなのに、なんだか明るい雰囲気が不思議
――吉田さんにとって映画『あつい胸さわぎ』はどのような作品になりましたか?
『あつい胸さわぎ』は主人公・武藤千夏の、ひと夏の“ちょっと”の成長物語だと思います。18歳の千夏の「自分じゃどうしょうもできないけれど、大人になりたい」という気持ちは、撮影当時18歳だった私の等身大の気持ちそのものでした。
この作品を初めて読ませていただいたのがオーディションの前でした。AYA世代(Adolescent and Young Adult / 思春期・若年成人)の乳がんという重くなりそうなテーマが入っていながらも、すごくあったかい。なんだか明るい雰囲気が不思議だなと感じていました。出来上がった映像を観て、千夏って常にいろいろな人から支えられているんだと分かって、それがこの作品のあったかさだと気づいたんです。
私自身、主演らしいことは何もできなかったんですけど、現場で皆さんにとても支えてもらっていました。監督も常に私に寄り添って撮影を進めてくださったので、そういうあったかさや雰囲気も千夏を通して作品に出ている気がします。
――乳がんを患う同世代の女性を演じるにあたって、どのようなことを意識しましたか?
『あつい胸さわぎ』では乳がんだけじゃなく、18歳の女性のいろいろな気持ちが描かれます。恋愛なら、今まで私が生きてきた中で感じたことで理解できる部分もあるんですが、乳がんになってしまうというのは、実際になられた方でないと分からないことがたくさんあると思うので深く考えました。
監督と一緒にお医者さんに質問させていただく機会もあって、教えていただいた乳がんになられた方のホームページを読ませていただいて、宣告された時にどういう気持ちだったのかといったことを参考に病院での表情や反応を演じました。
自分でもインターネットで調べてみたんですが、たくさん情報が出てきてどれがいい情報でどれが違う情報なのかよく分からなくて、すごく不安に思ったんです。千夏自身もきっとそうだったんだろうなって気づきました。
しかも18歳って、高校を卒業してちょっと浮ついた気分で、大人になった気にもなっているけれど、自分じゃ何も解決できないことが多い。「大人なのに、お母さんに頼んなきゃいけない」ってモヤモヤをどうしたらいいのかっていう千夏の状況にすごく共感して、特別な意識をせずに演じられました。
またこの作品では、母と娘の関係性も大切なのかなと思いました。私自身、母とは仲がいい方だと思っていて、千夏親子と重なる部分や共感できる部分が多く、母と娘のモヤモヤした気持ちのやり取りも分かったのかもしれないです。
■「私、魚好きなんです」が招いた、常盤貴子からのすっごく大きな段ボール
――母親・昭子役の常盤貴子さんとのダブル主演ですが、共演した感想を聞かせてください。
私の人としての目標が「芯がある女性になりたい」なんですが、常盤さんから“芯のある女性”というのをすごく感じました。演技でも、深刻ながらもちょっと抜けるところがある絶妙な間の取り方とかが素敵で、あこがれです。間近に居られてうれしかったです。
それと、和歌山県での撮影最終日、常盤さんやスタッフさんと市場をぶらぶらして「私、魚好きなんです」なんて話をしていたんですが、後日、我が家に常盤さんからすっごく大きな段ボールが届いたんです。大量の魚が入っていて、家族で食べてねって。「魚好きなんです」って話したのを覚えていてくださって、私の家族のことも思ってくださって、ほんとうに素敵な方だと思いました。
――常盤さんとは関西弁でテンポの良い親子の会話をされていましたが、関西弁の演技はいかがでしたか?
監督から、方言にひっぱられ過ぎて演技が違うものになってしまうのは求めていない、今できる自然な状態での関西弁でいいよと言ってもらっていました。だから、関西弁のサンプルを頂いて練習はしましたが、これまで何度か関西弁の役をやらせていただいて演技できていた表現を混ぜながら、無理をしない関西弁というのを意識しました。
■日本のアマルフィ、和歌山県雑賀崎でのロケ 猫と自転車と地元の人と
――お気に入りのシーンを教えてください。
お気に入りはいっぱいあるんですけど、中でも乳がんが分かった後、バイト先で千夏が友達のター坊に強く当たってしまうシーンが好きです。
実はあのシーン、私たちが演技をしている後ろを猫が歩いているんです。たまたま猫が歩いていただけなんですけど、千夏にとって非日常的なことが起きている間も世界は普通に動いていて、今まで通りに進んでいるんだっていうのを、その猫から感じました。
猫の前で行われている演技と猫の日常とのギャップはとても居心地の良いギャップだし、撮影現場でスタッフさんたちが「今、猫通ったよね。イイ感じだったよね」って盛り上がっていた思い出もあってすごく好きですね。
――風景も素晴らしいですね。千夏が自転車で走るシーンも気持ちよさそうでした。
この映画の中での自転車に乗るシーンって印象的で、ワクワク感や物事が進んで行く感じを表現する部分だと思っています。そういう清々しい気持ちみたいなものが映像に出ているかなって思います。夏場だったので風がすごく気持ちよくて、実際に乗っている私も清々しい気持ちでした。
ロケ地の和歌山県・雑賀崎は日本のアマルフィと呼ばれている場所なんですが、映像からも分かるようにとても素敵な場所でした。撮影中に地元の方とちょくちょくすれ違ったりしたんですが、「がんばってね」「できたら観るからね」と温かく声をかけてくださってすごくうれしかったです。この雰囲気の中で生きてきた親子なんだなって、千夏親子をイメージしやすい場所だったと思います。
『あつい胸さわぎ』は千夏のような10代が共感する部分はもちろん、お母さんだと娘のこととして共感できるし、男性が共感してくださるシーンもけっこうある。周囲の人の見捨てない温かさや見守り続けてくれる安心感も届いてくれる温かい作品だと思いますので、さまざまな年代の方に楽しんでいただけたらなと思っています。
【Profile】
吉田美月喜
2003年3月10日生まれ、東京都出身。近年の出演作品に、Netflixシリーズ『今際の国のアリス』(20)、『ドラゴン桜』(21)、日本テレビ系『ZIP!』内朝ドラマ『サヨウナラのその前に』(22)、映画『たぶん』(20/監督:Yuki Saito)、『MIRRORLIAR FILMS Season1』の一遍『Petto』(21/監督:枝優花)、『メイヘムガールズ』(22/監督:藤田真一)、鴻上尚史作・演出舞台『エゴ・サーチ』(22)など。2023年には、主演映画『カムイのうた』(監督:菅原浩志)、『パラダイス/半島』(監督:稲葉雄介)が公開予定。また、2月25日から放送予定の日本テレビドラマ『沼る。港区女子高生』にメイン出演が決定している。
映画『あつい胸さわぎ』
2023年1月27日(金) 新宿武蔵野館、イオンシネマほか全国ロードショー
原作:戯曲『あつい胸さわぎ』横山拓也(iaku)
監督:まつむらしんご
脚本:髙橋泉
出演:吉田美月喜 常盤貴子 前田敦子 奥平大兼 三浦誠己 佐藤緋美 石原理衣
主題歌:Hana Hope「それでも明日は」