『そして、バトンは渡された』プロデューサー単独インタビュー 相手を思いやる姿勢に貫かれた温かい現場だった
2022.11.11 07:00第16回本屋大賞を受賞した瀬尾まいこ氏の小説を映画化した『そして、バトンは渡された』が11月11日の『金曜ロードショー』で地上波初放送。それぞれに秘密を抱えた2つの家族の運命が交錯するこの映画は、興行収入16億円超、累計動員数も120万人を突破し、“大切な人と見たい一本”として幅広い世代に支持された。なぜ多くの人の心を動かす映画となったのか、entax取材班は田口生己プロデューサー(ワーナー・ブラザースジャパン)と古林茉莉プロデューサー(日本テレビ)に、今作品に託した思いと、こだわりのポイントを伺った。
■愛情を表現する料理シーンに込めたそれぞれの思い
――本屋大賞を受賞したベストセラー小説『そして、バトンは渡された』を映画化するにあたって、どんな点を大切にしようと思って制作されましたか?
田口生己 まずは『そして、バトンは渡された』は、ご存じの通り瀬尾まいこさんが書かれた大切な小説であり、それを我々が映像化をするにあたって、お預かりしているという感覚。素晴らしい作品にすることはもちろん、まずは瀬尾さんが書かれた小説の持つ性質と、瀬尾さん自身が大切にされようとしたことを最大限くみ取って、それを映像化することに最も注力しました。
『そして、バトンは渡された』はたとえ血のつながらない親子だとしても、“バトンを渡す”というタイトルが表している通り、“家族以上のつながりを持って、きずなを渡していく”というストーリーです。温かいお話ではあるんですけれども、その裏にシビアな現実だったり、つらい思いをしている子たちがいることも描かれている。プロデューサーの1人として、そういった中で、“人のつながりは、とても大切なもの”というメッセージを私は受け取ったので、そこを丁寧に描こうと考えました。
――この映画は“家族愛”がテーマの1つとなっていますが、それを伝えるために、作品の中で特にこだわったシーンを教えていただけますか?
古林茉莉 特徴的だなと思うのは、2つの家族のどちらも料理のシーンが入っていることです。特に田中圭さん演じる森宮さんから、永野芽郁さん演じる、血のつながらない娘の優子に愛情を伝える表現がお弁当だったり、1つ1つのご飯にすごく詰められている。
一方で石原さとみさん演じる梨花という女性も、料理が決してうまいわけではないですが、娘のみぃたんのためにフレンチトーストを作ったりして、彼女に対して愛情たっぷりで触れ合ってきたことの表現が、料理のシーンに反映されていると思います。
実はテレビ版でサイズカットする際にすごくこだわったのが、梨花のフレンチトーストのシーンで、編集上残していただきました。家族の愛を料理で表現ができることが、映画の強みだったのではないか、と考えています。
現場ではフードスタイリストのせんるいのりこさんに入っていただき、実際に食べる料理を作っていただいたんです。その料理が本当においしくて。お芝居をされる役者の皆さんも、本当においしそうに食べるんですよ。お芝居ではあるんですけれど、料理がおいしかったことで、より感情的にストーリーを描くことができるいい材料になりました。
――優子(永野芽郁)のお父さんである森宮さん(田中圭)は、料理上手ですよね。
古林茉莉 田中さんには料理が得意な森宮さんを演じるために、ちょっとリズムにのって調理していただいたりしました。おいしそうに一緒にご飯を食べる様子とか、お芝居の細かい表現まで監督と突き詰めた結果が、森宮さんの優しく温かい父親像になっているのだと思います。
――今作品は女性陣のファッションも見どころだと感じました。
古林茉莉 稲垣来泉ちゃん演じる、梨花の愛娘・みぃたんが着ていた赤い服ですが、実は手作りなんです。あの服のモチーフの赤というのが、ずっと本編で出ているんです。色1つ通しても、衣装を通しても、親子の愛というか、きずなといったものがちゃんと表現されていて。ファッションも見どころですし、俳優の皆さんはとても素敵に映っていると思います。
■原作の世界観はそのままで、映画版には大きな驚きが隠されている
――撮影に関してはいかがでしたか?
田口生己 撮影期間は2020年10月中旬から11月末までの1ヶ月半かけて行われました。家族のお話なので、撮影の仕掛け的に大変だったわけではないのですが、人の人生が交わるお話で、そこに感情がぶつかったりくっついたりして、何かしら思いが出てくるシーンが多くて。そういう意味では、すごく緊張感のある撮影でした。そのあたりは撮影環境も含めて、非常に気を遣ったところではあります。
バックボーンがそれぞれあるキャラクターたちのお話なので、監督は“どういうキャラクターで、ここはどういうお芝居をしなくてはいけないのか”という話をとても緻密(ちみつ)に、各俳優さんとお話していました。
この映画では“お互いを思いやる”という姿勢が、出演者の皆さんはもちろん、スタッフも含めて貫かれていて。撮影現場も作品同様にとても温かったです。今回、私もそんな撮影に立ち合えて、非常に幸せでした。
――今回『金曜ロードショー』で『そして、バトンは渡された』が放送されますが、視聴者の皆さんには、どんな風に楽しんでいただきたいですか?
古林茉莉 実は映画になる際に、物語の構造を大きく変えていまして。原作の世界観はそのままで作っているんですけれども、見ていただくと映画には大きな驚きがあるんですね。2つの家族がどうやって交わっていくのか、その驚きが見どころの1つになっていると思います。
1回ご覧になった方も、初めて見る方も、何度でも楽しんでいただける内容なので、ぜひこの地上波放送の機会で、多くの方にその驚きを味わっていただき、皆さんに愛される作品になるといいなと思っています。
――改めて映画『そして、バトンは渡された』はどんな作品になった、と感じられますか?
田口生己 公開してからレビューや感想はもちろん拝見させていただいているのですが、皆さん「たくさん泣けました」とか、「何回も見ました」「温かい気持ちになれた」と好意的に受け止めてくださって。作り手としては、この上ない喜びを感じています。
それと同時に最初に申し上げた通り、我々が映画に込めたものは、人とのつながり、家族というつながりだったので、身近な人の家族や友人といった人とのつながりをもう1回考えて、大切にしていただきたいという思いがあります。だからこそ、そういったところを感じていただけたら。
お茶の間でも楽しめる作品だと思うので、今回初のテレビ放送をご覧いだけるとうれしいですね。
キャストの魅力について語ったインタビューはこちらから。
【田口生己 Profile】
ワーナー・ブラザースジャパン ローカルプロダクション プロデューサー。近年のプロデュース作品には、『そして、バトンは渡された』(2021)、『TANG タング』(2022)など。
【古林茉莉 Profile】
日本テレビ グローバルビジネス局映画事業部 兼 コンテンツ制作局 プロデューサー。『今日から俺は!!劇場版』(2020)、『そして、バトンは渡された』(2021)など。現在担当しているドラマ『霊媒探偵・城塚翡翠』が毎週日曜よる10時30分~放送中。
11月11日(金)よる9時00分~11時34分(40分拡大)
『そして、バトンは渡された』(2021)地上波初放送
◆原作:瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』(文春文庫 刊)
◆監督:前田哲 ◆脚本:橋本裕志 ◆音楽:富貴晴美
◆出演:永野芽郁 田中圭 岡田健史 稲垣来泉 朝比奈彩 安藤裕子 戸田菜穂 木野花 石原さとみ / 大森南朋 市村正親