注目若手女優・吉柳咲良 演技の姿勢が変わったのは竹内涼真からのアドバイス「台本にない部分を大切にして」
2024.2.25 16:002017年に12歳でデビューして以降、舞台、ドラマ、映画、声優と多方面で活躍する女優の吉柳咲良に、entax取材班が単独取材を実施。『劇場版 君と世界が終わる日にFINAL』で物語の鍵を握る“謎の女”役を演じた吉柳に、撮影の裏話を聞いた。「ここまで役になり切ったのは初めてで辛かった」という綿密な役づくりのヒントをくれた先輩俳優とは……?
【作品紹介】
日本テレビ×Huluによる共同製作の連続ドラマ『君と世界が終わる日に』。ゾンビ化したゴーレムと戦う極限のサバイバルアクションと、愛する者同士のきずなを描いたシリーズはSeason4まで続き、今回初の映画化。『劇場版 君と世界が終わる日にFINAL』が公開中。
(前後編の前編)
■出演が決まったときは心臓が「ドクン!」
――『劇場版 君と世界が終わる日にFINAL』では、物語のキーパーソンとなる“謎の女”役でした。ドラマとして長いシーズン配信され続けた作品の劇場版に出演が決まった時の気持ちは?
吉柳 『きみセカ』のいち視聴者として劇場版は、「あぁ、ついにファイナルなんだ。どうなっちゃうんだろう」というのは、すごく楽しみにしていました。なので、自分がまさか出演できて、しかもこんなに重要な役柄なんだというのは緊張感がありました。
――オファーはいつ頃受けたのですか?
吉柳 最初は「出演できる“かも”」という、決まり切ってない感じの情報でした。そこからじわじわと「決まりそう」という話になっていくうちに、どんどんプレッシャーを感じて、決まったときには心臓が「ドクン!」となりました。
こんなに長く続いている作品ですから、主演の竹内涼真さんやスタッフの皆さんがどれだけの熱量や魂を込めてつくってきた作品か、というのは、現場に入らなくてもわかります。今までの作品を見てきた中で伝わってきているので、「さて、私がここの現場に入ってどうしよう?まっとうできるか?大丈夫か?」という不安は大きかったです。
■竹内涼真からアドバイス「台本にない部分を自分でつくってみたら?」
――声が良くて存在感があり、ミステリアスなところに惹(ひ)かれてキャスティングされたと鈴木プロデューサーから伺いました。役柄についてスタッフや共演者とどうやってコミュニケーションを取っていかれましたか?
吉柳 役については語れないことが多いのですが、『きみセカ』の現場に入るに当たってどういう気持ちで臨めばいいかなというのは考えていました。いざ監督とお話をしてみると、自分が想像していた100倍以上に熱い気持ちを持って取り組んでいらっしゃる。この熱量は思っていた以上だというのを感じて「私、このままじゃダメだ!」と、正直現場に入るのが怖くなったくらいです。
「こんなすごい作品の重要な役柄を背負っていいのだろうか」と思ってしまうほど、皆さんの覚悟がすごかった。そこから改めて役について深く考えて悩み抜きました。当時、自分の芝居について悩んでいた時期でもあったので、どんな風に役と向き合おうという不安が先行したのは確かです。
自分がクランクインする前に、一度現場を見学させてもらう機会をいただいたのですが、生で響として生きる竹内さんの並々ならぬ覚悟を目の当たりにして、さらに不安になり……。撮影が終わってから竹内さんにあいさつに行くと「さくちゃん、大丈夫だから!」と言われましたが、正直に「大丈夫じゃないです!」と返して笑われました(笑)。
何が大丈夫じゃないかと聞かれて「私はこの作品の世界に立っていい人間なのか。どうやってこの重要な役と向き合えばいいのかわからない」と答えると、竹内さんから「台本にない部分を大切にしてみて。台本にない部分を自分でつくってみたら?」とアドバイスをいただきました。
その言葉を聞いてから、小説が書けるアプリを使って自分で“謎の女”の物語を書いてみたんです。この子がどうやって生きてきたのか、何を食べてきたのか、何が好きで何が嫌いかというのを想像し細かく書き出して、自分で台本をつくってみました。その自作の台本と映画の台本、両方何度も読んで、とにかく『きみセカ』の世界観にどれだけ自分が入り込めるかというのを重要視して現場に入りました。
現場に入ってからは、さらに『きみセカ』一色の生活になるよう意識しました。『きみセカ』のことしか考えない、『きみセカ』の音楽しか聴かないというくらい没頭して、自分でセリフを言ったら安田レイさんが歌う挿入歌が勝手に頭の中で流れるくらいでした。
撮影現場へ向かう移動のバスの中で「なんて苦しいんだ」と思ったのを覚えています。頭の中で「今日はこのシーンだから、こうしてこうして……」と考えているようでは素の吉柳咲良になってしまうので考えないようにして、謎の女として生きることに必死でした。
――そういう役づくりは初めてでしたか?
吉柳 初めてでした。役についてこうしなきゃ、ああしなきゃ、と考える余裕もないくらい、どれだけその人物として生きられるかを考えたのは。疲労感は半端なかったですね。寝る瞬間まで“謎の女”でいるから、気が休まらないんです。朝起きた瞬間から“謎の女”ならどうする?何をする?どんな服を着る?というのを考えて過ごしていました。
■緊張やプレシャーを紛らわすため楽屋で筋トレ
――吉柳さんにとって、演じた“謎の女”とはどういう人物だったのですか?
吉柳 何より芯がある、軸がぶれない人であろうとは思っていました。出演シーンのほとんどは顔をマスクやマントで覆っているので、表現できるのは声と目。その状況で言葉に説得力を持たせるには、彼女の中でぶれない軸がなくてはだめ。それは響を探すということかもしれないし、この世界で生きていくということでもある。もし私が『きみセカ』のような終末世界にいたら、彼女みたいに芯が強くないからさっさといなくなるんじゃないかな。生きていくのが大変だし怖いし、逃げたくなる。その中で強く生きているからには、ぶれない軸がある子なんだというのは肝に銘じてました。
――それだけ役になり切ったら、撮影が終わった頃には精神的にも肉体的にも疲労感がすごそうです。
吉柳 疲労感はありましたね……。プレッシャーも常に感じていたし。現場に行けば行くほど緊張が増していったので。思い返すと辛かったなぁ。待機している時間は辛くて色々と考えたくないから、楽屋で筋トレしてました(笑)。
――撮影中、心の支えになったのは何ですか?
吉柳 今思えば、“謎の女”として生きるというのが逆に支えになっている部分がありました。私自身でいるのは辛かったと思います。こうしなきゃ、ああしなきゃ、でもできなかった、という思考になったと思うので。彼女として生きる方がブレないから楽だったのかもしれないです。
■試写会では監督の隣で大号泣!
――辛い役づくりを乗り越えて、完成した作品を初めて観たときはどうでしたか?
吉柳 大号泣!監督の隣で観ていたのですが、大号泣でした。自分が出ていないシーンからもうずっと泣いていました。何より響がすごすぎて。ここまでできるなんてもうすごいを通り越して怖いくらい。竹内さんの作品にかける想いと覚悟が段違いでした。
自分の芝居がどうだとか細かいことよりも、その想いを無駄にはしたくないという気持ちが大きかったので。あとは辛かったな……と撮影当時を思い出すと涙がツーッと流れました。しんどかったけどよくやった!と、自分で自分を労いながら泣いていました。
――これから映画を観る方にはどういったところに注目してほしいでしょうか。
吉柳 皆さんは私が演じた役を見てどんな風に思うんでしょうね。彼女は何のために響を探しているのかというのが、彼女の発する言葉によってどのくらい観る方に伝わるのかすごく気になりますし、少し不安でもあります。
“謎の女”が持つ覚悟と、響が持つ覚悟がちょっと重なるんじゃないかなという気はします。私は重ねて観ていました。二人とも、色んな人が周りからいなくなって、すごく大きなものを背負って生きていますよね。響から見る世界と、“謎の女”から見る世界がちょっとリンクしているような気がしていて、二人は似たようなところが多いと思います。二人とも、大切な人を探しに行く理由がすごく切ないですよね。
そして、この劇場版で最終的に私がやらなくちゃいけないことを考えると、響が来美(くるみ)を愛していたからこそ……という過去とリンクしているのが辛かったです。愛した人を失う、しかもその原因は自分にあるという苦しみに耐えてきた響がいるから守られてきたのに、同じようなことをしてこの世界を終わらせないといけないというのが苦しかったです。
――そこはやはり愛情からですか?
吉柳 愛だと思います。愛でしかないです。
■ラストシーンはリハから本番まで涙が止められなかった
――響とのラストシーンは観ていて、タスキが渡されたような気がしました。リレーの続きがあるような……。
吉柳 あのシーンではセリフも、来美と対峙(たいじ)した時の響と同じようなことを言っているんですよね。だからリハから涙が勝手にあふれるくらい苦しくて、制御できずに一人で嗚咽(おえつ)を上げていました。苦しくて、苦しくて。直前までうまく泣けるかな?と思っていたのは何だったんだというくらい、ブワーッと涙があふれちゃったんです。
メイクさんから「目が腫れちゃうからまだ泣いちゃだめです!」って言われちゃうくらい、リハから本番まで全カット泣いていました。でも、もう訳が分からないくらい涙が止められないんです。私が過去イチ不細工に映っている映画と言っても過言ではないかも(笑)。顔の疲労感がすごくて、写真チェックしたときに「これ使えるかな?」とマネージャーさんと言い合うほどでした。でも逆にそれがリアルだったのかもしれません。
――そんな風になれる作品に出会えたことがすごいですよね。
吉柳 そうなんです。私も(演じることに対して)気持ちが変わった作品になりました。それまで芝居に対して悶々(もんもん)と悩んでいたのが、この作品を境になくなったので。本当に竹内さんのおかげだと思います。台本にない部分を大切にして、というアドバイスがなければ、もっと悩んでもっとわからないまま感情をここまで入れることができずに不安なままで演じていたと思うので。
演じる役柄についてあれだけ深く考えたからこそ、細かく色んなシーンの気持ちのつながりがちょっとずつ出てきて、「彼女として生きるのはこんなに大変なんだ」と実感できました。大変だったけど、すごくいい時間を過ごせました。
(後編へと続く)
【吉柳咲良(きりゅうさくら)Profile】
2004年4月22日生まれ、栃木県出身。第41回ホリプロタレントスカウトキャラバン「PURE GIRL 2016」にて、歴代最年少となる12歳でグランプリを獲得し、芸能界入り。2017年〜2022年の6年間、ミュージカル『ピーター・パン』で10代目ピーター・パンを務めた。映画『初恋ロスタイム』(2019年)ヒロイン役で映像作品初出演。アニメ映画『天気の子』(2019年)、『かがみの孤城』(2022年)では声優キャスト。2024年は公開中の『劇場版 君と世界が終わる日にFINAL』に出演しているほか、連続テレビ小説『ブギウギ』(NHK)出演が待機中。5月からはミュージカル『ロミオ&ジュリエット』にジュリエット役(奥田いろはとのWキャスト)で出演することが決まっている。
【Information】
『劇場版 君と世界が終わる日にFINAL』
全国東宝系にて公開中
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